らいおんハート(3)
「う〜寒ぃ」
俺は、深夜にさしかかる時間になって、やっと終わったバイト先(ふとした
きっかけで知り合った摩紀ちゃんの店)を出た。
冬もかなり深まってきて、いつもの格好では寒くて仕方がない。
それとは反対に、懐の中はかなり暖かくなっていた。
今日で終わったバイトの給料は、目的の物を買うのには充分過ぎるほどだった。
旧校舎に潜れば、すぐに手に入る金額だったが、そんな所で稼いだ金で
買った物を贈っても逆に哀しませるだけなのは判っていたし、俺自身もそんな金で
麻莉菜―俺の恋人―に何かを贈ろうとは思わなかった。
(麻莉菜には似合わないもんな…)
誰よりも大事にしたいと俺が思っている麻莉菜が、かなり重いものを背負っていると
知らされたのは、四日前の事だった。
その直後、俺達が真に倒さなければならない柳生に、麻莉菜が斬られた。
俺は、彼女の身体から血が流れていくのを、ただ見つめて抱きしめる事しか
出来なかった。
桜ケ丘に運び込んで、一命をとりとめた麻莉菜が意識を取り戻したのは、今朝の事。
意識がはっきりしないらしく、最初はぼんやりしていたが、やがていつものように、
俺達に笑いかけてくれた。
あの時、麻莉菜が俺を止めてくれなければ、この笑顔を見る事が出来なかったかも
知れなかったと思うとぞっとする。
悔しいが、柳生の腕は、確実に現在の俺を上回っている。
闇雲に突っ込んでいっても、逆に返り討ちにあうか、良くても闇に取り込まれて
しまっていたのは間違いない。
そうなればもう二度と麻莉菜を抱きしめる事も、見る事すら出来なかっただろう。
「強くならねぇとな」
俺は誰に聞かせるではなく、一人呟いた。
誰よりも重いものを背負わされてしまった麻莉菜を護れるように、強くなりたかった。
あいつが何時も前を向いて笑っていられるようにするのが俺の望みだった。
俺はそんな事を考えながら、最近の寝場所にしている麻莉菜の部屋に入った。
広いリビングには微かな物音が響いていて、ゲージの中で、麻莉菜が飼っている
ハムスターが回し車を回していた。
「もう少し、待ってな。すぐに餌をやるからな」
台所の隅に置いてある餌を持ってきて補充してやってから、ソファに座る。
「後しばらくしたら、麻莉菜が帰ってくるからな」
答えが返って来ないのは判っていたが、そう呟かずにはいられなかった。
「早く戻ってこいよ…」
俺は、そのまま目を閉じた。
麻莉菜のいない部屋は、何処か寒々しくて、いつもの暖かみを感じる事は
できなかった。
いつもくるくる動き回っていた麻莉菜がいないだけで、こんなにも違うものなのだと
改めて思い知らされながら、俺は眠りについた。
朝、起きて、簡単に朝食を済ませると、麻莉菜の入院している桜ケ丘に向かった。
「あ〜、京一君だぁ。おはようぉ」
相変わらずのテンションの高さで、高見沢が俺を見つけて近づいてくる。
「あのねぇ〜いいニュースがあるのぉ。知りたい〜?」
カルテを両手で抱えながら、彼女はニコニコ笑っていた。
「なんだよ。もったいぶらずに教えろよ」
「うん、あのねぇ。麻莉菜ちゃん、今日退院できるんだよぉ」
「へ?」
俺は思わず、指を折って麻莉菜が入院していた日を数えた。
「マジかよ?まだ、5日目だぜ?」
「本当だよぉ〜。もう、ほとんど怪我も治ったから、大丈夫だろうって、岩山先生が
許可したのぉ。ねぇ、京一君、嬉しい?」
俺の顔を覗きこむようにして、高見沢はそう聞いてきた。
「そりゃ、嬉しいけどよ…」
院長の腕がいいのは知ってはいるが、いくら何でも…5日で退院できる怪我じゃない
ような気がする。
「じゃあ、どうしてそんな顔してるのぉ?」
俺が複雑な表情を浮かべているのを見て、高見沢は不満そうだった。
「少し、心配でな」
「だったら、麻莉菜ちゃんに会いに行けばいいじゃない」
そう言って、彼女は俺の腕を掴むと、麻莉菜の病室に向かって歩き出した。
「麻莉菜ちゃん、京一君が来たよぉ」
高見沢が扉を開けて室内を覗きこむと、俺の事を中に引き摺りこんだ。
「京一君!」
ベッドの側でバッグに着替えなど荷物をつめていた麻莉菜がその言葉に振り向いた。
「よ…よお」
嬉しそうな麻莉菜の顔を見た途端、一気に不安なんて何処かに消し飛んだ。
「麻莉菜、今日退院できるんだって?」
「うん。今朝、岩山先生がそう言ってくれて」
「良かったな。早く治って」
俺はそう言って、麻莉菜の髪の毛を片手でかき回した。
「京一君、学校は?」
麻莉菜は少し心配そうに聞いてくる。
「これから行く。心配すんな。それより、麻莉菜。夕方、暇か?」
麻莉菜を安心させる様に笑うと、俺は逆に聞き返した。
「うん、別に用事は…」
「だったら、どっかで待ち合わせてデートしようぜ。クリスマスイブなんだしよ。
たまには普通のデートってのもいいだろう?」
「え…」
「新宿西口のツリー、判るだろう? その前で六時に待ってるからよ。…と、やべぇ。
遅刻しちまう。じゃあ、麻莉菜。後でな」
俺は言いたいことだけ言うと、返事も聞かずに病室を後にした。
病室にケーキを持ちこんでとも考えていたが、外で会えるなら、それに越した事はないだろう。
(ここじゃ、他の奴らも来る可能性があるからな。麻莉菜と過ごす初めての
クリスマスを邪魔されてたまるかよ)
そう考えて、ふとガラスに映った自分の顔を見ると、心なしか紅くなっている。
その時になって、俺はかなり自分が緊張していた事に気づいた。
(やべぇ…。今頃になって、ドキドキしてきやがった)
まるで初めてデートするガキのように、胸の鼓動が激しくなっていた。
その状態は、放課後になり、目的の物を買って、待ち合わせの場所についても続いていた。
行き交う人込みを睨みつけるように見ながら、俺は麻莉菜が来るのを待っていた。
「京一君…」
やがて、背後から小さな声が聞こえて、俺は慌てて振り向いた。
「ごめんなさい…待たせた?」
麻莉菜が光沢のある紅いワンピースを着て、立っていた。
胸元にアクセントで白い花が飾られているその服は、麻莉菜に良く似合っていて、
それにあわせて、珍しく化粧もしているようだった。
俺はその姿に、しばらく見惚れてしまった。
「麻莉菜、その格好…」
「やっぱり、似合わない?亜里沙ちゃんが選んでくれて…」
俺の言葉を誤解したのか、麻莉菜が少し哀しそうに言った。
「そうだよね…いくら背伸びしたって…」
「似合ってるぜ。さすが、藤咲だよな」
(藤咲の見立てか。たぶん、化粧したのも藤咲だな…。あいつ、こういうのには
人一倍詳しいからな)
「本当?」
「嘘なんか言わねぇぜ。すげぇ綺麗だ」
目立たない程度の化粧も、麻莉菜に凄く似合っている。
藤咲の腕前に、俺は内心で感心していた。
俺は安心させるように、麻莉菜を抱きしめた。
「それより何か食べに行こうぜ。たまにはラーメン以外のものをな」
そう言って、俺は麻莉菜の手を握ると、歩き出した。
食事も終えて、俺が待たせている間に、麻莉菜が何処かの身の程知らずに
絡まれるというハプニングがあったらしいが、珍しく平穏な時間を過ごせた。
食事代を俺が出した事を、麻莉菜は気にしていたが、バイト代が入った事を
言うと、どうにか納得してくれたようだった。
そして、今俺達は新宿で一番大きいクリスマスツリーの前に来ていた。
「凄い…綺麗。こんな大きいツリーがあるなんて…」
麻莉菜は、色とりどりの電飾で飾り付けられたそのツリーに魅入っていた。
俺はと言えば、コートのポケットに入れてあった箱を握り締めながら、
麻莉菜を見つめていた。
「あのな…麻莉菜」
こんなに緊張したのは、生まれて初めてだった。
喉がカラカラになったようで、言葉が上手く出てこない。
「京一君と二人きりでこんなに綺麗なツリーを見れるなんて、夢みたい…」
そんな俺を知ってか知らずか、麻莉菜が呟いた。
その言葉に俺は少し落ちつきを取り戻した。
「麻莉菜は何時もどんな風にクリスマスやってたんだ?」
「その日だけは、特別だからって、お母さんやお店の人がケーキ作ってくれるの。
だから、24日はいつもの和菓子の匂いじゃなくて、生クリームの匂いが厨房にあふれて…」
麻莉菜はその光景を思い出したのか、少し笑った。
「ケーキの匂いをさせてる和菓子屋なんて、おかしいよね」
「そんな事ないだろう。麻莉菜がそれだけ可愛がられてる証拠じゃねぇか」
俺は、麻莉菜を抱きしめる腕に力を込めた。
「あとで、ケーキと飲物を買って帰ろうぜ」
「うん」
麻莉菜は俺の顔を見上げて頷いた。
「あ…雪…」
空から降ってきた白い物を麻莉菜は手を伸ばして、受けとめようとした。
彼女の掌で、それは溶けてなくなる。
「寒くねぇか?」
「平気」
麻莉菜に風が当たらない様に、着ていたコートで包む様に深く抱きしめた。
「麻莉菜に渡したいものがあるんだけどよ」
「?」
俺を不思議そうに見つめる麻莉菜の目の前に、ずっと握り締めていた箱を差し出した。
「なあに?」
「開けてみろよ」
俺の言葉に、麻莉菜が蓋を開ける。
中に収まっていた蒼い箱を見て、麻莉菜は驚いたような顔で俺を見た。
「京一君、これ…」
「いいから、開けてみろって」
戸惑う麻莉菜に、俺はそう言った。
中には、小さな指輪が収まっている。
店のウィンドーに飾られていたそれを見たとたんに、麻莉菜に似合いそうだと思って
買うことを決めてしまっていた。
店員が言うにはピンクオパールという石は珍しいらしい。その下に同系色の
トルマリンとルビーが飾られ、台はプラチナで作られていた。
誕生石ではないのだが、麻莉菜のイメージのその指輪を取り置いて
貰っていてバイトをして買う事ができた。
指輪の石が誕生石でないことを謝りながら、麻莉菜の指にそれをはめようとすると、彼女がそれを
押しとどめた。
「そ…そんな高いものをもらえないよ…」
麻莉菜は、遠慮してかそう言う。
「いいんだよ、バイトして買ったんだし。第一、俺が持ってたって仕方ねぇだろ。
俺が麻莉菜に似合うと思って、選んだんだ。受けとってくれないと、俺が困る」
「でも…あたし、何もプレゼント用意してないし…」
「いいから、受けとっとけ」
俺は、無理やり麻莉菜の指に指輪をはめた。
「…」
麻莉菜はまだ躊躇っていて、やがて俺の方を見て口を開いた。
「…だったら、今度…京一君の欲しい物をプレゼントするね。じゃないと、
これを受け取れないから」
「俺の欲しい物をくれるのか?」
「うん」
「だったら、今くれるか?」
「え、何か欲しい物あるの?」
少し首を傾げる麻莉菜の耳元に口をよせると、俺は小さな声で囁いた。
「麻莉菜が欲しい」
「え…」
最初きょとんとしていた麻莉菜は、やがて意味が判ったのか視線がきょろきょろと泳ぐ。
「あ…あの…それって…」
「駄目か?」
「そ…そんな事…ないけど…」
麻莉菜は真っ赤になって俯いてしまった。
「俺が一番欲しいのは麻莉菜だから」
再び囁いた言葉に、麻莉菜は小さく頷いた。
だが、帰り道でも、麻莉菜が緊張しているのがはっきりと伝わってきた。
マンションに帰りついて、居間でケーキを切っている時も、彼女は落ちつかない様子だった。
(焦りすぎたか…)
あれから麻莉菜は一言も口を聞かず、ただ黙々と作業をしている。
ケーキを皿に取り分けて、俺に渡す時も無言だった。
皿を受け取る時に、少し手が触れたが、その途端、麻莉菜は慌てて手を引っ込めた。
居間に気まずい雰囲気が流れて、俺は自分の言葉を少し後悔し始めた。
一緒に買ってきたシャンパンを飲みながら、テーブルをはさんで向かい側に座って
いる麻莉菜の様子を伺う。
麻莉菜は、下を向いたままで、ジュースを飲んでいた。
「なぁ…」
「京一君、それ…美味しい?」
俺が声をかけようとしたとき、逆に麻莉菜が問いかけてきた。
「え?ああ、飲みやすいのは確かだけどよ。どうした?」
麻莉菜が聞いているのが、俺のグラスの中のシャンパンの事だと気づいて、そう答える。
「少し…貰っていい?飲んでみたいの…」
「ああ」
俺は、空いていたグラスに少しだけ注いで、麻莉菜に渡す。
麻莉菜は泡の浮かんでいるグラスの中身をしばらく見つめていたが、意を決したように
少し口に含む。
「少しにしとけよ。飲んだことねぇんだろ?」
「う…うん…!」
一口、飲んだ麻莉菜は思いきりむせ込んだ。
「おい…大丈夫か?」
俺は慌てて麻莉菜の背後に回って、背中を擦る。
「うん、平気…」
咳き込みながら、答える麻莉菜の眼には涙が滲んでいた。
「無理に飲もうとするなよ」
俺は、麻莉菜の手からグラスを取ると、テーブルの上に置いた。
「少し…落ちつけるかと思って…」
小さなその声に、俺は天井を見上げた。
「だから…」
そんな麻莉菜を落ちつかせようと、彼女の腕を掴んで立たせると、窓の所に連れていった。
「あ…」
窓から新宿の夜景と降り続く雪を二人で眺める。
「綺麗」
俺にもたれかかって麻莉菜がそう言ったのは、しばらくしてからだった。
「落ちついたか?」
「うん…。ねぇ、京一君…」
麻莉菜は外の風景を見つめたまま、口を開いた。
「なんだ?」
「さっきの…本気で言ってくれたの…?その…あたしが…欲しいって…」
「ああ。麻莉菜が好きだから、麻莉菜が欲しいと思った」
「だったら…いいよ…」
迷う事無く即答した俺の胸により深くもたれながら、麻莉菜が呟く。
「ずっと…入院してる間…怖かったの…。いきなり、黄龍の器なんて…呼ばれて…。
あたしは、もう京一君の側にいられないんじゃないかと思って…。そんな事になったら、
どうしようかって…」
「…」
俺は黙って、麻莉菜の言葉を聞いていた。
「だから…そんな事になる前に、あたしを京一君のものにして…。京一君で、あたしの中を一杯に
して下さい…ずっと、側にいられるように…」
麻莉菜のか細い言葉が紡ぎ終わる前に、俺は彼女を抱き上げて歩き出した。
寝室の扉を開けて、俺はそっとベッドに彼女を下ろした。
「あ…あの…さっき、汗かいたし…入院してた時、怪我に障るからってシャワーも浴びれなくて…。
だから、お風呂…入って来ていい?」
「あ…ああ」
麻莉菜は、急いで立ちあがると、部屋を出ていった。
居間の向こう側で、扉が閉まる音が聞こえてくる。
俺は彼女が戻ってくるまで、ベッドに座って残ったシャンパンを飲んでいた。
「京一君…」
30分位たった時、麻莉菜が寝室に入ってきた。
先ほどまで着ていたワンピースから、ピンク色のパジャマに着替えていた。
俺は麻莉菜の腕を掴むと、彼女の身体を抱きよせて、ベッドに横たわった。
その時、ちょっとした悪戯でグラスに残っていたシャンパンを一口含むと、彼女に深く口づける。
「ん…」
口移しに流し込んだシャンパンが、麻莉菜の喉をコクリと鳴らした。
「さっきもこうやって飲ましてやれば良かったな」
「…」
残りを全て口に含んで、再び口づけると、飲みきれなかった分が口から首に伝わり落ちていき、
それを見た俺は麻莉菜の首筋に唇を落とすと、軽く舌で舐めとる。
「あ…ん…」
くすぐったいのか、俺の腕の中で麻莉菜が少し身動ぎする。
「やッ…!」
彼女が声を上げたのは、俺が布地の上から胸に触れた時だった。
「麻莉菜」
安心させるように耳元で囁くと、パジャマの上着のボタンをゆっくりと一つずつ外していく。
布の下から現れた小ぶりだが、形のいい膨らみにある蕾を口に含む。
軽く舌で転がすと、麻莉菜の身体がピクリと跳ねた。
「あ…」
片方の胸の蕾を口に含んだまま、もう片方の蕾を指で擦る。
「やぁ…」
麻莉菜の腕が無意識に俺を押しのけようとする。
その腕を空いていた腕で押さえ込むと、胸の膨らみを掴む。
「京一…くん…」
ゆっくりと唇を下に這わせていくと、麻莉菜が微かに俺の名前を呼ぶ。
その声に、彼女の顔を覗きこむと、閉じられた眼の端にうっすらと涙が浮かんでいた。
「麻莉菜?」
驚いて少し身体を離すと、麻莉菜の身体が微かだが小刻みに震えているのに気づいた。
「怖いのか?」
「少し…。でも…平気…だから…続けて…。大丈夫だから」
切れ切れに答える麻莉菜の声を聞いた俺は、麻莉菜の身体を腕の中に抱きしめて、彼女の横に
寝転がる。
「?京一君…?」
身体を起こそうとした彼女の事をより深く抱きしめる。
「焦るのは止めた。麻莉菜が本気で俺を欲しがってくれるまで、待つよ。」
「え…」
「お前、本気じゃないだろ。怖がってるしよ。変な心配しなくても、俺は麻莉菜の側
にいるからよ。何があってもこの手を離しゃしねぇから、安心しろ。
それに別に焦らなくてもいい事だしな。全てが終わってからでもいいだろう?今、
やらなきゃいけねぇ事でもないしな。それに今やっちまったら、なんか想い出作る
みたいだしよ。俺はそんな想い出はいらねぇ。だから、柳生を倒して、勝ってから
でもいいよな」
俺は自分の骨ばった手で麻莉菜の柔らかな手を握った。
その指には、俺が贈った指輪が光っていた。
「ただし、麻莉菜が本気になった時は、遠慮なんてしねぇ。手加減もしねぇから、
覚悟しとけよ」
「…あ…あの。京一君?」
その言葉を聞いたとたん、麻莉菜の顔が不安そうなものに変わる。
「大丈夫だって。そんな心配しなくても。壊したりはしねぇから」
麻莉菜の髪の毛を軽くかき回すと、胸の膨らみに唇を這わせて強く吸い上げる。
「あ…」
麻莉菜の胸に紅い印が咲く。
同じように彼女の身体のあちこちに唇を這わせると、印をいくつもつけていった。
「京一君…」
「麻莉菜が俺のモンだって、印な。まぁ、これが消えるまでに決心してくれたら、
ありがたいけどよ」
「…これ…消えちゃうんだよね…」
麻莉菜が少し寂しそうな声を出した。
「傷の代りに、これがずっと残ってればいいのに…」
麻莉菜の胸には、柳生に負わされた傷が残っていた。
「そうすれば…あたしはずっと京一君のものだって…思えるのにね」
そう呟く麻莉菜の事を俺は深く抱きしめて、ベッドの端においやられていた毛布を
自分達にかける。
「印が消えそうになったら、またつけてやるよ。麻莉菜が望むならな」
「うん…」
麻莉菜はその言葉を聞いて、静かに笑った。
「約束してね…。ずぅっと、この手を離さないって…」
「ああ、安心してろ。そんな真似、もう二度としやしねぇから」
「約束…ね」
俺達はその後、抱き合ったまま眠りについた。
翌朝、太陽の光がさしこむ中、俺は眼を覚ました。
「ん…」
俺の腕の中で麻莉菜が微かに動いて、再び静かな寝息を漏らし始める。
彼女を起こさない様に気をつけながら、少し身体を起きあがって、外の風景を眺めていた。
窓の外には、昨日から降り続いていたらしい雪が積って、それに朝日が反射していた。
「京一…君…?」
しばらくたった時、眼を覚ました麻莉菜が眼を擦りながら、俺の腕に掴まって起き上がる。
「眼ぇ醒めたか?」
「おはよう…!あ…!」
自分がどんな姿をしているのかに気づいた麻莉菜は、慌てて毛布で胸を隠した。
「何をやってんだ?」
「だ…だって…恥ずかしい…」
麻莉菜は真っ赤になりながらそう言うと、俯いてしまった。
「あ〜、麻莉菜…そんな事より外、見てみろよ」
「え?わぁ、凄い!綺麗!」
話題を逸らそうとした俺によりかかって、彼女は外の風景を見て呟いた。
「珍しいからな。東京でこんなに雪が降るなんて。寒くねぇか?」
「平気。京一君の腕の中暖かいから」
俺達は、一枚の毛布に包まってその光景を眺めていた。
「いつまでも一緒に同じ風景を見ような」
「うん」
俺達は、見つめ合うとどちらからともなく、深いキスを交し合って、抱き合うと再び
眠りの世界におちていった。
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