チョコレート
「良かったね。なんとなく上手くいって…」
「ああ、あの2人がってのが、少し驚きだけどな」
「でも、お似合いだよね」
公園の前で出来上がったばかりのカップルと別れて、家路につきながら麻莉菜と京一は
笑っていた。
「ああ、そうだな。でも、ホワイトデーに和菓子渡したりしないだろうな」
「葵、それでも喜ぶと思う…。」
自分の頬に両手をあてて、喜んでいる麻莉菜を横目で見ながら、京一は少し複雑な表情を
浮かべた。
「と…ところでさ…」
「なぁに?」
「麻莉菜は…その…くれないのか…?」
「え?あ!ごめんなさい、ちゃんと用意してあるの…」
慌てて、麻莉菜がスカートのポケットから小さな包みを引っ張り出す。
「あの…初めて作ったから…美味しいかどうか判らないんだけど…」
「どれ…?」
京一は包みを解いて中身を口にいれる。
「甘くない…?」
心配そうに麻莉菜が京一を見つめる。
「ああ、大丈夫だぜ。ありがとうな」
彼女を安心させるように京一は微笑んでみせる。
「ほら」
箱の中に残っていたチョコをつまんで、麻莉菜の口に放り込む。
「そんなに甘くないだろ?」
「ん…」
口の中でチョコを溶かしながら、顔を赤くして麻莉菜は頷いた。
「…?」
その様子を見ながら、もう一つを口に運び…中身に気づいて、慌てて麻莉菜を振り返る。
「麻莉菜、酒入れたのか!?」
「う…ん、この前、使いきれなくて残ってたの…いれたの…」
「この前って…」
京一は、台所に置いてあった酒類を思い返してみる。
(一番、使いそうなのは日本酒だが…でもそれじゃ、チョコには合わないし…他に入れられそうなモンっていったら…!)
「シャンパンの残りか!?」
クリスマスに買ったシャンパンのビンが冷蔵庫にまだ入っていたのを、京一は思い出した。
(さっさと飲んどけば良かったぜ)
「ごめんな、麻莉菜。酒弱いのに」
そう言いながら、彼女の身体を抱き上げる。
「眠くなったら、寝ちまっていいからな」
そう言って、そのままマンションに向かう。
鍵を開けて、そのまま麻莉菜の部屋に入り、彼女をベッドに横たえて出て行こうとする。
「ん…?」
袖をつかまれてる感覚に振り返ると、麻莉菜が寝息を立てたまま京一の袖をしっかりと
握っていた。
(…起きねぇだろうし…しかたねぇか…)
京一は、麻莉菜の身体を少し移動させると空いたスペースにもぐりこむ。
「ふぁ…」
ここ数日、続いていたバイトの疲れから、京一にも眠気が襲ってくる。
(久しぶりにゆっくり寝るか…)
麻莉菜の身体を抱きしめたまま、京一は眠りにつく。
ホワイトデーに何を渡そうか考えながら…。