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労働者文学会 労働と生活にねざした文化
                      
                      





小林孝吉 こばやし たかよし

1953年長野県生まれ
明治学院大学文学部卒業・博士(学術)九州大学.
元学校法人神奈川大学常務理事

『椎名麟三論 回心の瞬間』(菁柿堂)
『滝沢克己 存在の宇宙』(創言社)、
『記憶と文学―「グラウント・ゼロ」から未来へ』 (御茶の水書房)
『埴谷雄高『死霊』論―夢と虹』(御茶の水書房)、
『椎名麟三の文学と希望―キリスト教文学の誕生』 (
菁柿堂)、
『内村鑑三―私は一基督者である』(御茶の水書房)、
『原発と原発の文学ーポスト・フクシマの希望』(菁柿堂)、
『内村鑑三の聖書講解一神の言のコスモスと再臨信仰』(教文館)など


『千年紀文学』 編集人


講座「愛といのちの文学―生命の水の河の(ほとり)で(続)」

講師 小林孝吉
2025年11月8日〜12月6日
土曜日 全5回 10:30-12:00
受講料 9000円
神奈川大学みなとみらいエクステンション
講座・後期
要予約 下記HPから
連続講座「 愛といのちの文学」
【概要】
 古今東西の文学の森。本講座では、主に近代以降の日本文学や外国文学、古典、哲学、宗教にも目を向けながら、その作品の魅力を解読します。
 今回は、旧約聖書の「楽園」とヴォルテールの『カンディード』、昨年アジアで初の女性としてノーベル文学賞を受賞した韓国の作家ハン・ガンの小説、悲しみを見つめた在日作家の金鶴泳、芥川龍之介と原民喜の心願の国、孤高の現代俳人・西川徹郎などの作品を取り上げ、共に響き合う「愛といのちの文学」を学び、その生命(いのち)の水の流れる河の(ほとり)に広がる希望の風景を見つめます。

講座時間 10:30〜12:00 土曜日

講師 小林孝𠮷(文芸評論家・明治学院キリスト教研究所協力研究員・NPO法人滝沢克己協会理事長)

第1回 11月8日(土)
テーマ 旧約の楽園とヴォルテール『カンディード』
 旧約聖書創世記の楽園の物語とヴォルテール(1694−1778年)の「最善説」を風刺した『カンディード』を通して、生きることの意味を考えます。

第2回 11月15日(土)
テーマ ハン・ガン『別れを告げない』『少年が来る』
 2024年にノーベル文学賞を受賞した韓国の現代作家ハン・ガン(1970−、光州生まれ)の歴史における戦争と暴力の記憶を愛の物語へと昇華する文学を、現代の世界と重ねて考えます。
 
第3回 11月22日(土)
テーマ 金鶴泳『土の悲しみ』『心はあじさいの花』
 在日の作家金鶴泳(1938−1985年)の若き晩年の作品『土の悲しみ』『心はあじさいの花』と李優蘭『川べりの家族』などを取り上げ、悲しみの底にあるものを見つめます。

第4回 11月29日(土)
テーマ 芥川龍之介の遺作と原民喜『心願の国』
 日本近代を代表する作家芥川龍之介(1892−1927年)と、原爆を体験した詩人・作家の原民喜(1905−1951年)の遺作を通して、「心願の国」を考えます。

第5回 12月6日(土)
テーマ 西川徹郎『天使の悪夢九千句』と十代歌集
 北海道旭川の孤高の俳人・西川徹郎(1947−)の九千句を収めた『天使の悪夢』と、十代の短歌「十代歌集」を対比し、その文学の宇宙を考えます。

  【HP コラム 2025・9)

トルストイ82歳のガンディーへの手紙

小林孝吉

 ロシアの作家トルストイ(1828〜1910)の82歳の最後の手紙は、ガンディーに宛てたものであった。トルストイは、ロシア帝国の時代に、ヤースナヤ・ポリャーナで伯爵家の4男として生まれる。若き日の放蕩三昧の生活、クリミヤ戦争の戦場体験、領地の農婦への愛欲、また1861年の農奴解放令など、19世紀の激変の時代を背景に、『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』などで作家としての名声を得る。反面、家庭内不和とともに50歳を前に精神的危機を迎え、『懺悔』などに描かれた人生への深い懐疑を経て、新たな精神的誕生により、死の代わりに光と遭遇した『イワン・イリッチの死』などの信仰的希望の文学へと至る。トルストイは、財産の罪悪視、著作権の放棄、飢饉救済活動、日露戦争批判、兵役拒否の思想等を実践し、その信仰は民衆へと向かい宗務院からは破門される。
 1910年10月28日、「私はこれまで生きて来たぜいたく三昧の境遇の中でこれ以上生きてゆくことはできない。だから私は自分と同年輩の老人が普通することをする――つまり自分の生涯の最後の日々を孤独と静寂の中で過すために、俗世の生活から去る……」(川端香男里『トルストイ』)と妻への書き置きを残し、寒い秋の日に家出をする。リャザン・ウラル線の小駅アスターポヴォで病に臥し、11月7日世を去った。
 82歳の9月7日、トルストイはガンディー宛に最後の手紙を書いている。手紙は、「あなたの雑誌Indian Opinionを受け取りました」と始まり、こう記されている。――そこに書かれていた無抵抗主義の人々のことを知り、私の心に生まれた考えをあなたに聞いていただきたい。無抵抗の本質というのは、愛の法則にほかなりません。愛は人間生活の最高にして、唯一の法則です。愛の法則は、ひとたび抵抗という名の暴力が認められると無価値になり、権力という法則だけが存在します、と。当時ガンディーは、南アのトランスヴァールで、反英抵抗運動をつづけていた。その非暴力・不服従の勇気を鼓舞したのがヒンドゥー教の聖典「神の歌」であった。
 2022年のロシアのウクライナ侵攻、2023年以降の殺戮と飢餓に蔽われた、旧約以来の約束の地パレスチナのガザ地区の極限的惨状、子ども・女性・市民を含む死者が日々増えつづける、この戦争の新世紀に、「愛の法則」ほど求められているものない。しかも、ひとたび抵抗の暴力が容認されたとき、それは「権力という法則」へと堕落する。そこに希望はない。
 眼前には、そんな権力の法則とともに、世界の分断と社会のディストピアの風景は止めどなく広がりつづけている。いかに迂遠に見えようとも、トルストイとガンディーの愛の思想に、改めて眼を向けなければならないであろう。未来のために。

 
講座「愛といのちの文学―希望を読む

講師 小林孝吉
2024年6月15日7月13日
土曜日 全5回 10:30-12:00
受講料 9000円
神奈川大学みなとみらいエクステンションセンター
講座(2024年前期)
(ku-portsquare.jp)
【概要】
 古今東西の文学の森。そこには愛といのちの文学が伝える希望が響いています。
 私たちの生きる21世紀のグローバル世界は、戦争や環境クライシスなど、大きな困難におおわれています。本講座では、主に近代以降の文学作品を取り上げ、外国文学にも目を向けながら、作家や詩人の生きた時代とその生涯とともに、文学の秘めた魅力を見つめ直します。それは困難な時代を生きる希望の道標となるでしょう。
 これまでの本講座でテーマとした「いのちを見つめる文学」に続き、「愛といのちの文学」をともに考え、文学の希望を読み解きます。

第1回 6月15日(土) 
 ドストエフスキー『地下生活者の手記』『罪と罰』――愛といのちの文学、新しい楽園へ
 19世紀のペテルブルグで、精神の地下室に閉じこもる男と、リーザという不幸な女性をめぐる手記と、罪を犯した青年ラスコーリニコフと信仰に生きるソーニャとの救済による愛の物語を見つめます。

第2回 6月22日(土)
 椎名麟三『邂逅』――自由への途と回心のドラマ
 戦後の自由を求めて生きることの苦悩のなかで、キリスト教の洗礼を受け、回心のドラマを体験した椎名麟三。そのけわしい自由への途を、『邂逅』とともにたどります。

第3回 6月29日(土)
 石原吉郎『望郷と海』『断念の海から』――ラーゲリを生きた詩人、望郷と希望
 厳寒の地で、ラーゲリ(強制収容所)を生きぬいた詩人の望郷と希望の交錯するエッセイ集から伝わる言葉の真実と詩の世界を考えます。

第4回 7月 6日(土)
 高橋たか子『誘惑者』『私の通った路』――悪を描く文学から霊性の文学へ
 友人を三原山火口での自殺行に誘う『誘惑者』から、カトリックのキリスト者となり、フランスでの修道院生活を経験した、その神探究の物語『私の通った路』をたどります。

第5回 7月13日(土)
 高良留美子と詩の宇宙――『高良留美子全詩』といのちの詩、縄文の森と自由
 生命の河の水音と歴史の声を聞き、いのちと愛の詩をつづった詩人(女性史家)の詩の宇宙を、遺著『見出された縄文の母系制と月の文化』から照らしだします。

 講師紹介 小林孝𠮷 文芸評論家 明治学院大学キリスト教研究所協力研究員
 1953年、長野県生まれ。明治学院大学文学部卒業。博士(学術)九州大学。NPO法人滝沢克己協会理事長。元学校法人神奈川大学常務理事。著書に、『椎名麟三論 回心の瞬間』(菁柿堂)、『滝沢克己 存在の宇宙』(創言社)、『記憶と文学』(御茶の水書房)、『埴谷雄高『死霊』論』(御茶の水書房)、『椎名麟三の文学と希望』(菁柿堂)、『内村鑑三』(御茶の水書房)、『内村鑑三の聖書講解』(教文館)、『内村鑑三の信仰詩・訳詩・短歌等集成』(編、明治学院大学キリスト教研究所)などがある。

問い合わせ
 神奈川大学KUポートスクエア(みなとみらいキャンパス)045(682)5553
 HPから申し込みができます。


講座 「いのちを見つめる文学(続)
戦争の新世紀のなかで」


講師 小林孝吉
2022年10月22日12月17日
土曜日 全5回 10:30-12:00
受講料 9000円
神奈川大学エクステンションセンター