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労働者文学会 
労働と生活にねざした文化
                      
                      



  森下千尋 もりしたちひろ

第36回労働者文学賞2024
詩の部門 佳作
「Therapy]
 
 【HPコラム 2025・7】

 

目の前にいても君は気付かない

体温が交わりそうなくらい近い息遣い

AIにない警戒 恋愛にない正解

データにない敬愛 宴会になり寝ない 眩暈

人間らしさに限界は無しだ

実験は足場 記憶がフラッシュバック

昨日は浦島 マシになったのか暮らしは

停滞した経済で育つ逞しさ

アブラカダブラ 達磨はカルマ

明日が分かるなら歌は桜

散り行く存在咲かす瞬間

生きている現在を切り取り出発

未来に思考が向けば心配や不安で

過去を振り返る情けはつまんねえ

無断で使用したイメージは無関係

頭は此処にいないで企んでいる


体温、呼吸、たっぷりのユーモア

自虐的に固有の人生を全うしよう

息を吸って吐く流れサイクルにある

躍動する生命の活動を記録しよう

人工知能が発達高度なコミュニケーションや

クラス一の秀才を余裕で超える勉強家

そんな時代に人間に残るものを考える

ハナから何も無かったのにねって少し笑える


スマホを手放して 娘の宿題を手伝おう

スマホを手放して 妻と一日を振り返ろう


感情の揺れ動き

状況や関係性に宿る実体験

成長と共にあった喜びや失敗へ

そんなことをつまみにして

同時代に生まれたすべての友と

一杯やりてえ


しっかり安定の人生を設計

小っちゃいことに囚われない大人になりたい

間違いを謝れなかった事にあった

交わり 恥かき グラスの中の

ウイスキーに深み増す味わい

熟成ってやつが安定を鑑定すると

価値があるのは不完全な数%

反省を繰り返す半生と

スーパー銭湯 流す労働後の汗を

大浴場から見えた海に沈むサンセット

美しいと想う心が

確かにここに在ると映した万華鏡




  【HPコラム 2024・12】

応答する労働

 リラクゼーションセラピストという仕事は、一般に思われている以上に難しい。
『ふれる』という行為、相手とのゼロ距離でのコミュニケーション、疲れている人に応対するにはまず自分自身元気でなくていけない。
わたし自身、日々難しさと向き合いながら仕事を続けている。
まず、ひとつ質問をさせて頂く。
あなたは今日人との触れ合いはどれくらいありましたか?
身体的に誰かとつながる行為、特に日本人は日常のコミュニケーションの中でハグやキスがないから、不得意なのではないだろうか。

揉みほぐし。リラクゼーションセラピストは、身体の凝りや張りを緩めていくのが仕事だ。しかし、その上前述したように高度なコミュニケーションを必要とされる。施術者はクライアントの無言の訴え、抱えているストレスを、やりとりの中から聴いたり、察したりして相手を慮ることが出来るようにならないといけない。そして、それは身体の凝りや張りを解すことにも通じてくる。

経験を得て、わたしが掴んだヒントがある。
他者に対する緊張を緩める手がかりは、『笑い』と『温度』にある。
一般的に揉みほぐしはクライアントがうつ伏せ、または横向になり、背中を預けられるかたちになるが、相手に背を向けていただくというのは少なくとも信用を得ないことにははじまらない。
他者に触れる我が手の温度と、能動的に先手を打って笑う行為が相手の心身を解していく。
手の温度はぬくもり、安心感を与えるし、笑うという行為は、ある種無防備で開けている。わたしはあなたの敵ではないですよ、というポーズこそが、現代人のストレスや緊張を解く。
そこまでして緊張状態にあること、多様性に満ちた世界で共生していきましょうと謳う社会の中で真の敵とは何なんだろう。折に触れて考えていきたい。

言語、非言語、身体、心理と多くの要素が絡み合って、セラピーという時間と空間を作り上げる。それはインタラクティブな営みであるし、他者の声ならざる声に応答していく労働でもある。
いや、そもそも仕事とは誰かの声に応答する労働ではないだろうか。
それをニーズと言い換えてしまっただけで、本来は誰かの困ったことに対する自分の行動のことだったはずだ。
やりたいことを見つけなさい。多くの人が言う。本当にそうか?
自分を必要とする声、将来のヴィジョンや企業のミッションも結構だが、兎にも角にも目の前の相手に応答する。
自分の感受性を開放して、そのシグナルに反応する。それが仕事のはじまりでもいい。
出来ることは少ない。まず、このコラムを書いてほしいと言われたことに対して全力で応答したい。