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労働者文学会 労働と生活にねざした文化
                      
                      


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村松孝明 むらまつ こうめい
1945年 千葉県生まれ
1977年 「深夜勤務」で第14回「総評文学賞」を受賞

      『労働者文学』 編集長
      「労働者文学会」 代表幹事

季刊『千年紀文学』 小説連載中





『笑う男』 村松孝明
彩流社  1987年1月15日




「白いカラス」 
web労動者文学会作品集 (外部リンク)


【HPコラム2025・1】

窪田聡さんを知っていますか

かあさんが 夜なべをして
袋編んでくれた

 という、かあさんの歌は多くの人に親しまれ歌われてきました。しかし、作詞した人は? 作曲した人は? となるとそれほど知られていないかもしれません。作詞・作曲は同じ人物で窪田聡さんです。窪田さんは1935年生まれの今年で丁度90歳になります。今も元気に音楽活動をしています。かあさんの歌は1956年2月『うたごえ新聞』に発表されました。来年の2月に「かあさんの歌」70年記念コンサートが計画されています。
 1955年(昭和30年)ごろから労働運動や学生運動の高まりに連れて、歌声運動も盛り上がりました。その中心を担ったのは、各地に誕生した歌声喫茶でした。かあさんの歌はその歌声喫茶から、全国に広まったと思われます。それがずっと歌い継がれています。レコーディングした歌手も多く、ペギー葉山・ダークダックス・倍賞千恵子・岩崎宏美など多数います。音楽の教科書にも載り、学校でも歌われるようになりました。2007年には「日本の歌百選」にも「荒城の月」「上を向いて歩こう」「世界に一つだけの花」などと一緒に選ばれました。

 窪田さんは日本音楽協会(日音協)で、事務局次長として音楽運動の中心を担いました。日音協は1965年旧総評系の労働組合が中心となって設立しました。初代会長は芥川也寸志です。日音協は、つくり、うたい、ひろめ、つなぎあう、をスローガンのもと、既成の音楽ではなく自ら表現する労働者の育成に努めてきました。なかでも日音協主催のはたらくものの音楽祭では、中央本部の出し物として『統一企画』作品を創作し上演してきました。窪田さんはその中心で働きました。私も台本作成に参加して大変勉強させてもらいました。
 その後、瀬戸内海に面した牛窓町(瀬戸内市)に移転して、そこを拠点に音楽活動を展開することになります。音楽を主とした企画出版する《鈍工房》を運営し、隣接する小ホール《自由空間DON》では音楽集会「窪田聡・車座コンサート」の定例会を開催。そのほか出前コンサートなどで全国を飛び回って活躍してきました。

 その窪田聡さんは我が労働者文学会の古くからの会員です。
 労働者文学会では生涯現役の会を主催しています。第一回は今年で102歳になる福田玲三さんでした。福田さんは国労本部の書記として関わった経験から、「生涯で一番貴重な経験(松川事件)と新しい戦前の兆候」と題して講演しました。予定時間をオーバーして、年齢を感じさせない熱弁でした。東京新聞は見開きで何枚もの写真を付けて報じました。第二回は窪田聡さんに決まり、今から楽しみです。日時は4月13日(日)14時〜17時・場所は本郷文化フォーラム(東京・本郷三丁目)詳細は後日。



遊憂コラム
(2024・1)

ガラパゴス国

 無税のパーティー券を大量に売りつけながら、会場が狭いので来ないでくれでは、利益率半端じゃないよ。当然買う方も見返りあってのこと。消費税上げるたびに法人税を下げてもらう。結果は内部留保が戦後最大で、片や貧困家庭も最大となった。このところの政治とカネの問題だ。テレビや新聞でなじみの面々の顔写真をじっと見ていると、テレビドラマの悪代官よりも名優ぞろいに見えてくる。数ある写真の中からそれらしいのを厳選したとしても、どう生きたらこんな顔が生成されるのかと思うこの頃。
 木枯らしや安倍派の平家物語(細井彰12/12)
 膿出せば消えてなくなる自民党(岩井廣安12/5
)
 いずれも朝日川柳の掲載句だ。しかし、自民党はなくなるだろうか。いや、果たして膿を出しきれるだろうか。今、一部から政治資金規正法の手直しが言われている。世論に押されて、せざるを得なくなるかもしれない。しかし、泥棒が泥棒法を作っているようなもので、ザル法になるのは目に見えている。泥棒がばれたら返せばお咎めなし、なんて法律はもう通用しない時代だ。抜け穴だらけのザル法にしないためには、第三者機関に依頼するしかない。例えば今回の地検が動くきっかけを作った上脇博之神戸学院大教授などを中心に、完璧な法案を作ってもらう。水の一滴も漏らさない完璧なものだ。悪代官はいろいろな理由をつけて反対するだろうが、自浄作業が働かないのだから仕方ない。情けないが作ってもらうしかない。その法案を国会で議論すればいい。与野党で根回しなどせずに、テレビカメラの前で議論する。裏取引なしだ。岸田首相は国民の信頼回復のために火の玉となって自民党の先頭に立つと言ったそうだが、今度こそ真剣にやらなければ、
 火の玉が火達磨になり消える朝(朝日川柳落選句)
 そんな日が来るかもしれない。よく政治にはカネがかかると言うが、主に選挙に使うためだとか。彼らは選挙に勝つために、秘書5、6人を使って毎日カネをバラまいているらしい。選挙に勝つにはそれが必要だと思い込んでいるようだ。本来は政策を競うことで決まるのではないか。その仕事を放棄してパーティーで集めたカネをバラまくことに精を出すような人は、我々が見極めて落選させなければならない。彼らは50年100年先を見据えた仕事をしなければならないはずなのに、目先の選挙しか見ていないとすれば、この国はガラパゴス国になってしまう。    
                          (2023/12/30記)



【HPコラム2023・1

三人の本から

 12月に入って三人の方の本を頂いた。順に紹介すると河村義人さんの『反戦の書を読む―戦争を根絶するために』垣内出版(1800円+税)。河村さんは2015年の労働者文学賞に「前進する文学?中上健次と梁石日」で佳作になった。その後、部落解放文学賞に入選している。今度の出版は主に『部落解放』に発表したものをまとめたものだ。羽仁五郎の『君の心が戦争を起こす』に始まり、A・アインシュタイン、S・フロイト『ひとはなぜ戦争をするのか』まで48冊の本の紹介だ。大岡昇平『野火』、『石垣りん詩集』、林京子『祭りの場』、広河隆一『パレスチナ』、『チャプリン自伝』、『日本国憲法』など幅広く取り上げている。困難な時代を乗り越えるヒントが詰まっている。河村さんとは千年紀文学の仲間だ。
 次は『高良留美子全詩集』上・下、土曜美術出版販売(各5500円)。箱入の豪華本だ。高良さんは2021年12月12日に永眠された。本書は生前に本の体裁、書体、大きさ、組み方まで全て本人が指示したそうだ。何よりも興味深いのは亡くなる直前まで改稿を重ねたことだ。したがって既刊の詩集とは若干の相違がある。それを見比べるのも高良さんを読み解くうえで貴重であり、興味深い。マイナス一歳から始まる長めの自筆年譜がついていて、これも貴重である。私は1973年新日本文学会に入会したが、高良さんとはその頃からのお付き合いである。その後「戦後文学の研究会」や千年紀文学会でもご一緒させて頂いた。パートナーの竹内泰弘さんにも同じ場で大変お世話になった。
 最後は『木下昌明のがん日記』績文堂出版(私家版/限定130部)で定価はない。木下さんは労働者文学会の年末恒例の映画会ではいつもお世話になった。いい映画を紹介してくれて、上映後に解説もして頂いた。また労働者文学賞の選者でもあった。2019年は4月23日に選考会を行ったが、いつもより顔色が悪かった。それでも選考後の飲み会に付き合ってくれた。気になって翌日電話すると、笑いながら「本当に疲れたよ」と言ったのがいまだに耳に残っている。本書は大学ノート16冊に赤ボールペンで書かれたものの一部。がんの進行過程を克明に描いた壮絶な日記である。日記に書かれた場面で……たとえば映画館や国会周辺で何度か会った。ある飲み会では隣になった。その時の私は、尿が一滴も出なくなり尿道カテーテルを入れていて、ドーナツ型の座布団を持ち歩いていた。木下さんも同じような座布団を取り出して座った。田舎の海で泳いで気持ちが良かったという文章を読んだ後で、あの文章には勇気づけられたと話すと、それは嬉しいなと返ってきた。ストマ―でも大丈夫なのかと一番気になることを聞くと、まったく問題ないと笑った。我々の前では明るく振舞っていたが、日記を読むと壮絶な戦いをしていたのだ。最後の一滴まで生き切った人で、2020年12月6日に永眠された。この生き様を130部の私家版で終わらせるのはもったいない。もっと大勢の人に読まれるといいと思う。見逃せないのは編集発行人の小林たかしさんのご尽力だ。感謝。

 もっといろいろな話を聞いておけばよかった。もっと話しておけばよかったと思う。それは木下さんだけでなく、高良さんの時もそうだった。神田貞三さんの時も小沢信夫さんの時も。小島力さん、三枝邦彦さん、磐城葦彦さん、田辺昌さん、土屋隆治さん、馬場晃子さん、小田美智男さん、皆木育夫さん、古くは小谷章さん、……。特に残念なのは若くして山で行方不明になった田中創さん。思い出すとキリがないが、この人たちはみんな私の財産だ。私が忘れない限り生き続けていて、いつでも会うことができる。
 国会周辺を歩けばカメラを持った木下さんが、ひょっこり現れるような気がしてくる。


【一口コラム 2022・2


布マスク


オミクロン株が急激に拡散している。三度目のワクチン接種も進まない。PCR検査キットも不足してお手上げ状態だ。そのなかで尾身会長が、ウレタンマスクや布マスクでなく不織布マスクをしっかり着けるようにと言った。以前からウレタンや布は効果が極めて限定的だと研究結果が出ていたのに、政府関係者が不織布を奨励しないのか不思議だった。まさか、あのアベノマスクに配慮しているのではないかと思ったりもした。だいたい一家に二枚という配布にも疑問がある。五人家族も一人住まいも二枚では、税金の使い方として不公平過ぎないか。それよりも問題はあまりの不人気で、街中でアベノマスクをほとんど見かけなかった。政府の施策だから国会議員は全員アベノマスクを着けるだろうと思っていたら、政権与党の自公の議員も安倍内閣の閣僚も官僚たちも着けていなかった。内閣府の側近たちも一二を除いて着けなかった。安倍さんは一人で小さなマスクを着けて頑張っていた。今から思えばあのマスクはテレビカメラの前だけだったのかもしれないが、一人寂しく着けているのを見て気の毒にさえなった。体調を崩して道半ばで辞められたが、アベノマスクが一因ではないかと思っていた。
 
 ところが最近アベノマスクの保管に年間6億円かかると報道され、税金の無駄使いだと非難されると、聞く耳を持つ岸田首相は廃棄処分を決めた。その前に希望者に無料で配布すると発表。安倍派の会合で安倍元首相は7800万枚に対して2億8000万枚の応募があった。もっと早くやってもらえればよかったと言い、みんなでなごやかに笑っている姿がニュースに流れた。ここは笑うところだろうか。この笑いを見ていると2億枚足りないから、増産しろと言い出すのではないかと心配になる。悲しいが安倍後援会などの関係者が、大量に申し込んだのではないかと勘繰ってしまった。
 配布希望は37万件で配送料が10億円に上る。すべて廃棄した場合は6000万円程度で済むとの政府関係者の試算。今朝(202222)の西日本新聞が配信している。37万件で2億8000万枚の応募ということは一件平均756万枚になる。この大量の布マスクを、どう使うのか聞いてみたいものだ。


【『労働者文学』89号 編集後記 2021・7】


 オリンピックはバブル方式でやるから安全だと言うが、ウガンダに続きセルビアの選手団からも陽性者が出た。すでに穴だらけだ。政府は口先だけで自治体やホテルに丸投げしていたこともバレた。万全を期してと言いながら、何の準備もなかった。一年延期して時間はたっぶりあったのに、問題が起きてから検討する泥縄式。
 コロナ対策には何人もの大臣が就いた。厚労大臣、コロナ感染症担当大臣、ワクチン担当大臣、ワクチン広報担当大臣? ワクチン大規模接種担当大臣? 船頭ばかりで船は一向に進まない。そんな中、オリンピックは強行される。ワクチンの接種率はクーデターが起きたミャンマーと同じレベルだと非難され、やっと動き始めた。
 一日に百万回接種すると勇ましかったが、肝心の弾が切れた。政権の計画性のなさに呆れる。何もかも行き当たりばったりで失敗続きだ。やがてこのツケが増税や行政サービスの低下という形でかえってくる。衆議員選挙は目前だ。忙しくて忘れがちだが、しっかり覚えておいて、諦めずに選挙に行こう。
 いつにも増して労働者文学賞の応募作品が少なかった。ぎりぎりの生活で文学どころではないということか。労働現場の息苦しさは、コロナによって際立ち尋常ではない。こういう時こそ、現状に風穴を開けるような想像力豊かでしたたかな文学が必要である。まずは労働現場、生活現場の実態を記録することが重要であろう。