「米、ベネズエラ首都を攻撃」
「マドゥロ大統領夫妻を拘束、ニューヨークへ連行」
ひと月前の「米国国家安全保障戦略」発表がこれか
その日わたしは昨年秋に出版された
生駒孝子の初めての詩集『光る轍』を読みはじめていた
新天竜川橋を渡る
大型トラックのフロントガラスは
シアターに早変わりする
紅く熟れた月のような太陽が
音もなく倍速で駆け上がってくる
(略)
私はいったい何者なのだ
最初の「ある朝の詩」を読み
この詩人が確かめようとしているものを
シアターから一緒に見つめてみようと思った
「朝」
ひざ掛けの上から、太ももをさすりながら
トラックを走らせる
ヒーターはまだ効かない
(略)
あった
土手を下り始めると、灯が一つ浮かんでいる
その窓には、堆く重ねられた材料を前に働く人がいる
前掛けを掛け、背を丸めた小柄の女工がひとり
しんしんと冷たい色の空気が振動する
ああ、同じ朝だ
(略)
孤独な労働の闇の中に彼女が探していたのは
背を丸めた小柄の女工だった
「米がベネズエラを運営する」
「米大手石油会社が投資して石油インフラを修復し引き継ぐ」
「地中から膨大な富を掘り起こす」
これが「モンロー主義にトランプ補則を付加したドンロー主義」とうそぶく
彼女は、自動車製造会社の一次下請けの部品供給会社から
製造会社の工場まで部品を運ぶ
二次下請けに働く大型11トントラックの運転手だ
臨海工場地帯の部品サプライチェーンの
動脈と静脈を血液のように流れ
昼も夜も指定する時間と場所に荷物を届ける
フォークリフトも操作し、積んで走る、下ろして走る
それをデジタルタコメータが記録する
速度、時間、距離、急加速・減速、GPS位置情報・・・
「国有化した石油産業はうまくいかなかった」
「不適切な管理や投資不足で石油インフラを劣化させた」からだ
だが経済封鎖、金融・石油輸出制裁をかけ
修理も更新も出来なくさせたのは誰か
『光る轍』のシアターに登場するのは
同僚のトラック運転手や次長、他社のドライバー
サプライチェーに繋がれた労働者たちだけではない
深夜のコンビニで働くアジアの若い女性や掃除婦、新聞配達など様々だ
詩人の眼差しは、手袋やセーターを編んでやるように優しい
「私を大統領にするなら石油や金など鉱物資源を民営化し、米国企業に売却する」
と約束していたノーベル平和賞のマチャドはもういらない
爆撃のあとトランプは言い放つ
「彼女は民衆に支持されていない」と
詩を書くようになったのは相談に行った地域ユニオンで
退職後も地域で活動している国鉄詩人地引浩に誘われてから
以来、働きながら見たこと感じたこと想いを
絵を描くように詩にしてきた
その一篇一篇が小さな小説のようにつながれ
分断された低賃金、長時間労働を食い物にしている
部品サプライチェーンの内臓に内から光をあてる
「米、ロシア船籍タンカー拿捕」
イラン、中国、ロシアの技術者の助けを借り
ようやく輸出できるようになった石油をトランプは奪う
「アメリカ第一」サプライチェーンにはアメリカ大陸が必要だ
カナダもグリーンランドもだ!
「一寸の虫にも(一)」
その朝私はおそるおそるパンドラの箱を開けた
(略)
「ウチの運転手は有給取らないんです」じゃないんだよ
(略)
「残業で稼げるからいいじゃないか」じゃないんだよ
(略)
返せ返せ 運転手の人生を返せ
運転手のプライドを返せ
私たちがこの国の物流をささえてきたんだ
詩人は書きつづける
闇のなかをオリオンに励まされ
「朝日の放つ生まれたての光」に向かって
欧米の植民地主義者を追い出し、ベネズエラを取り返したのは
低賃金で働かされ、豊かな富を奪い取られて来た貧しい労働者や農民
かれらだ、マドゥロを支えているのは
「だれの植民地にもならない」とロドリゲス新大統領
トランプは、かれらが望む国を恐れている
なぜならそうした国々が団結し
ドルに縛られない世界を作り始めたからだ |