野豚狩り地獄     木村 和


兵役体験を林業労働退職者たちが語り合った時

遠い思い出話におちいりながらも

戦友の死は悔しそうに語り残虐行為については避け

大陸転戦と南方で戦った者とでは戦況も違い

一兵卒として語れることはわずかだった

フィリピン戦線にいたSさんが凄惨な話をした

密林に布陣したSさんの部隊は敵の餓死戦略を嘲り

土民と呼びすてた島の人びとの住居を襲って

食糧を略奪し抵抗する人びとは殺害した

親たち年長者から解体して調理した

それを上官たちから順に食べた

兵役体験を林業労働退職者たちが語り合った時

遠い思い出話におちいりながらも

戦友の死は悔しそうに語り残虐行為については避け

大陸転戦と南方で戦った者とでは戦況も違い

一兵卒として語れることはわずかだった

フィリピン戦線にいたSさんが凄惨な話をした

密林に布陣したSさんの部隊は敵の餓死戦略を嘲り

土民と呼びすてた島の人びとの住居を襲って

食糧を略奪し抵抗する人びとは殺害した

親たち年長者から解体して調理した

それを上官たちから順に食べた

それぞれ故郷に戻ることができた

その後は内地の故郷を離れ北海道各地で働き

家庭をもつことなく生涯独り身で過ごした人

私が知った頃のSさんは温厚寡黙な雰囲気で

まさか野豚狩りを語るとは思わなかった

Sさんは望んだとおり天皇よりも一年長く生き

一九九〇年にこの世から去った




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