沢村ふう子 さわむらふうこ


「下北半島から北海道・泊原発への旅」 2017年
   web労動者文学会作品集

「「大東亜共栄圏」という神話を考える 火野葦平から」
第34回労働者文学賞2022 評論/ルポの部門 入選
『労働者文学』91号(2022年)

沢村ふう子作品集
『ともに在る/ともに生きる』
2018年 自家版


「ともに在る、ともに生きる」
第24回労働者文学賞 小説の部門 入選
『労働者文学』71号(2012年)

「時給八百円也
第22回労働者文学賞 小説の部門 佳作

『労働者文学』47号(2010年)



【HPコラム 2023・9】

旧宗主国 VS 旧植民地

                                    沢村 ふう子

 あまり報道されていないが、ロシアへの経済制裁に参加している国は国連190カ国余の中で40カ国に満たない(20234月)という。アジアでは日本・韓国・台湾・シンガポールのみ。何故か。
 今年5月にG7サミットが広島で開かれた。GDPの高い国、いわゆる「先進国」の首脳会議だ。その構成国はアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、日本、カナダである(EUも)。
 かつて植民地を所有した旧宗主国がずらりと並んでいることに驚く。これらの国々は「植民地」だった国や地域から収奪して経済発展し「先進国」になった。日本も、かつて台湾や朝鮮半島を植民地として支配、敗戦後、「戦力」を放棄してアメリカの核の傘に入り、経済復興を遂げた。
 先頃、ニジェールでのクーデターを知って世界地図を広げてみた。西アフリカにあり、マリ、ブルキナファソなどと並ぶフランスの植民地だった国だ。公用語はフランス語、通貨も発行権はフランスにあり、ユーロとの交換率が決められている。フランスやその他の「先進国」による「支援」を受けても「世界の最貧国」から抜け出せない。北部のウラン資源はフランスの原発エネルギーとなり、かつては日本も輸入していた。豊富な資源の開発から製品化の過程を旧宗主国がおさえ利益を吸い上げる。その搾取の仕組みを維持する政権をフランス軍が駐留して支える。テロリスト対策を名目に掲げているが治安は良くならない。不満を持つ軍人たちがクーデターを起こす。背景に貧困に苦しむ民衆の怒りや不満があることは想像にかたくない。
 これまで圧倒的な力でG7の国が世界を支配してきた。アメリカを中心に「自由・民主主義」を掲げ、イラクやアフガニスタンなど世界の様々な国、地域で、その理念に合わないことを理由に戦争や紛争を起こしてきた。
 しかし今や、「グローバルサウス」といわれる、かつて植民地だったアフリカや中南米の国々が、ロシアへの経済制裁に加わらない選択をして「先進国」G7に対抗し始めている。BRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカを構成国とし、先頃開かれたサミットでは、新たにアルゼンチンやサウジアラビアなど6カ国も加盟するという。そうなれば世界の46%の人口、35%のGDPを擁する地域グループになる。この中でロシアはソ連崩壊後、核大国ではあるものの経済はGDP世界12位、韓国並で、決して豊かな国ではない。(クリミア併合によってG8から外れたロシアもかつては宗主国であった)。一方中国は、かつて「半植民地」として分断支配されたが、今やアフリカ、中東、中南米への経済援助などで進出し、軍事力でもアメリカと対抗しつつある。インドもかつてはイギリスの植民地だったが、中国と並んでBRICSを牽引している。マクロ的視野に立てば、旧植民地グループ(「新興国」「発展途上国」)が旧宗主国グループ(G7)に対抗し始めている。今後、前者がどのように発展・安定化していけるのかは予断を許さない。国境を越える資本主義の飽くなき利潤追及が世界経済を支配している中で、両者のせめぎ合いが続くだろう。
 日本は「先進国」と胸を張っているがアメリカが「右向け」と言ったら右を向く国家だ。米軍は日本国内での基地や上空を超法規的に利用することが出来る。「アメリカの51番目の州」と言う人もいる位だ。またOECD(経済協力開発機構)での平均年収国際比較では38カ国中24位、アメリカの半分以下、韓国より低い。債務が1000兆円を越える赤字をかかえながら、政府は「台湾有事」に備える防衛費増大やとっくに破産した原子力政策・原発推進に私たちの血税をつぎこみ、物価高騰に苦しむ労働者の生活を顧みない。
 国会で虚偽の発言を100回以上繰り返した前総理大臣、今も「関東大震災時の朝鮮人虐殺の公式記録はない」と述べる官房長官、私たちは嘘ばかり聞かされ、「法の支配」を破る憲法違反を強行され、「敵基地攻撃能力」まで閣議決定された。ウクライナ戦争も欧米経由の報道を聞かされ、アジアにありながら欧米・G7の立場での思考を強いられている。私たちは、日米安保条約を遵守し続けてアメリカへの従属を深めるより、隣国との関係を改善しアジアの国々と対等・互恵の友好関係を築き、私たち市民・労働者の命と暮らしを守る戦争をしない政府を作る希望を持ち続けたいと思う。

 

 



【HPコラム 2022・8 後半】



「場所からたどるアメリカと奴隷制
の歴史」を読んで

 (アフリカ系アメリカ人クリント・スミス著・原書房) 

 この本を読んで、今現在もアメリカでは「奴隷解放未だならず」と言うべきだということに衝撃を受けた。著者は奴隷制の物語がいまもなお生き続ける場所・・・八カ所を訪ね歩いた。「奴隷解放宣言」から一世紀半以上たっていても、なおこの国では黒人が差別・・・貧困や暴力・・・にさらされている。普通、歴史は時間軸に沿って叙述されていくが、著者はアメリカの広大な地域を巡って、歴史を横空間に広げて展開する。奴隷制度がなくなった今なお、奴隷の子孫たちが苦しめられている現実とその構造を、実にたくさんの事例をもとに、読者の目の前に見えるように叙述した。訪問先のガイドの説明やツアー参加者の表情、その場所の描写などが具体的に述べられているので、あたかもそこに自分が参加しているかのような臨場感のある記録になっている。私たちは「ブラック・ライブズ・マター」が起こらざるを得ないアメリカの現状をあらためて知らされるのだ。

 のっけから驚かされるのはアメリカ独立宣言を起草したとされるトーマス・ジェファソンが多くの奴隷を所有し続け、その利益によって読書や執筆活動、来客をもてなす生活を維持していたということである。時に子供や孫に「奴隷」をプレゼントしていた(ジェファソンは「農園記録」という奴隷についての名前や売却の詳細な記録を残している)。「独立宣言」の有名な一節「すべての人は平等につくられていること。彼らはその創造主によって、一定の譲るべからざる権利を与えられていること」はこの起草者の実際の生活によって裏切られていた。

 ジェファソンのプランテーション巡りから始まった奴隷制に関わる物語は、終わりの方でニューヨークという「自由」の象徴である場所がおぞましい奴隷市場の跡地であることを明らかにする。南部だけが奴隷制の甘い汁をすったのではない。アメリカの経済・資本そのものが奴隷労働によって発展したのだ、奴隷解放の前も後も。

 アメリカで現在まで続く黒人支配の有り様が歴史の隠蔽や書き換えを伴って続いている。それを読んで、植民地支配や侵略戦争についての歴史を隠蔽、改ざんする日本の姿が重なるように感じられた。

 この本から、アメリカの各地に奴隷制やそれに連なる「遺跡」及び「その後」、「刑務所」「歴史記念館」などを巡る観光ツアーが行われていることを知った。アウシュビッツのツアーがいわゆる「ダークツーリズム」と呼ばれるが、そういう内容のものもあれば、ガイドのやり方によっては単なる観光名所巡りにもなっているらしい。白人も黒人も若者も中高年も外国人も参加出来る。日本では、修学旅行はあるけれど、一般の人にツアーが組まれるとは余り聞かない。このようなツアーを通して歴史に向き合う機会が日本でもあってほしい。

 それにしても教員であった時に「奴隷制」について机上の知識を語っていた自分は、アメリカ奴隷制の今に至る根深い闇をどれほど知っていたのかと思うと冷や汗が出る。是非一読をお勧めしたい。