鎌田 慧  かまた さとし

1938年 青森弘前市生まれ

ルポライター

「労働者文学賞」選者
 2010年〜

沈思実行」週刊コラム(新社会党)



 リアリティーについて 鎌田慧
        (『労働者文学』第89号 労働者文学賞選評より)


「労働者文学」などは不必要だ。文学をせまく考える必要はない、という言い方がある。「乳母(おんば)日傘」。つまり過保護だ、とのいい方もあった。それでも、労働者文学は必要だ、とわたしは思う。それが運動だからだ。

 労働者という存在の自己規定が、職場を見直す視点をつくり、観察力を強め、書くことによって運動に参加しょうという、思考の成熟度をふやす。職場内の矛盾を発見し、抵抗の基盤をつくる。

 しかし、いまのように職場での団体交渉がなくなり、職場闘争が払底すると、表現活動が沈滞し、労働運動が弱体化する。運動と表現の負のスパイラルだ。コロナ禍でリモートがすすめられ、出勤して仲間と顔を合わせての話し合いがなくなったあと、職場での労働運動はどうなるのだろうか。工場ばかりか事務労働もIT化がすすみ、さらにAIに取って代えられようとしている。そのなかで労働と運動の意識はどう変るのか。これまでもすでに技術革新と労働の変化は、一体のものだった。労働現場で合理化を迎え撃とうとする作品は、文学史的には意外にすくない。

 たとえ、テーマが労働問題ではなくとも、いま追いつめられている状況のなかで、生き抜いている人びとの苦闘から発する、生きている共感や笑いを与える作品を読みたい。





全記録 炭鉱」 2007年 創森社




「自動車絶望工場」 1983年 講談社文庫




「反逆老人は死なず」 2019年 岩波書店




「忘れ得ぬ言葉」 2023年 岩波書店



『自動車絶望工場』 (現代史出版会)    1973年
『反骨 鈴木東民の生涯』 (講談社文庫)
『国鉄処分』 (講談社文庫)
『六ヵ所村の記録」 (講談社文庫)
『労働者!』 (ちくま文庫)
『痛憤の現場を歩く』 (金曜日)
『抵抗する自由〜小数者として生きる〜』 (七つ森書館)
『自選ルポルタージュ集 鎌田慧の記録(全6巻)』 (岩波書店)
『日本列島を往く(全6巻)』 (岩波書店)
『教育工場の子どもたち』 (岩波書店)
『現代社会百面相』 (岩波書店)
『大杉榮 自由への疾走』 (岩波書店) 
『反逆老人は死なず』(岩波書店2019年)など多数