「我々は未来から裁かれることになるだろう」 
 
                岡和田 晃 (文芸評論家・作家)


分断への違和感は、大手文芸誌よりもリトルマガジンの方へ積極的に書きつけられている。鈴木健司「アニメ制作陣ノーチラス」(労働者文学賞佳作)は、地方の市役所勤務の若い女性二人が安定した職をなげうって上京し、アニメ業界で活躍するようになる話。それ自体は他愛もないハッピーエンドで、批評意識も希薄なのだが、にもかかわらず、フリーランスのアニメーターが置かれている経済的に不安定な現状の抽出に、無意識に成功している。 

上田修「僕は郵便配達という仕事が大好きなんだ」(労働者文学賞)は、郵政民営化を強行した小泉政権成立前夜の郵便局の非常勤配達員のきわめて現場を、軽妙かつユーモラスに描く。就職活動に失敗し、一発逆転を狙う先が公務員というのが就職氷河期のリアリティで、非常勤職員に対する職場内の露骨な格差や、「残ってくれ」と「人は足りてる」の間で揺れ動く、管理側の場当たり的な対応が読みどころ。

        『図書新聞』 2023年10月7日(土)  
            文学・芸術 〈世界内戦〉下の文芸時評 第103回