人間

陽羅義光



人間のいのちの道の半ばで正しい道を踏み迷い、

はたと気づくと暗黒の森の中だった(ダンテ)

世界は美しいけれども、ひとつだけ美しくないもの 

があって、それは私たち人間です。(チェーホフ)



あれは水音であったろうか あれは月光であったろうか

ひそやかな黄昏に聴こえる しずかな夜ふけにながめる

あれは水音であったろうか あれは月光であったろうか

それともあれは想い出の中 それともあれは幻の夢の中

聴こえる聴こえる聴こえる ながめるながめるながめる

わたしは巨石の上に眠ろう わたしは天空の中を泳ごう

わたしは水音の上に眠ろう わたしは月光の中を泳ごう

音はわたしを鞣すであろう 光はわたしを曝すであろう

そうしていまこそ告白の時 そうしていまこそ蛮勇の時

真実いうと世界が凍るなら 凍らせてみようホトトギス

吉本興行こぞってがんばる それで笑える世界ではない

人間はできそこないである 人間はできそこないである

心臓は一つでは心もとない 肺や腎臓や尿管は二つだが

胃も肝臓も肛門も一つだけ これらは差別だ片手落ちだ

手が二本というのは少ない 千手観音こそ理想的である

脳も二倍はないといけない 苦悩を自分で解決できない

眼は後ろにも不可欠である 後ろから襲われないように

人間はできそこないである 人間はできそこないである

一度に百人は産めないから 少子化問題などが発生する 

各国で言語が統一されない 各国で思想が統一されない

各国で宗教が統一されない 各国で肌色が統一されない

そのため戦争が終わらない 人間人間人間人間人間様よ

人間はできそこないである 人間はできそこないの見本

大昔の聖者は気づいていた 仏陀にイエスにマホメット

だからできそこないを救う 方法をなんだかんだ考えた

けれども人間に救いなんか 馬の耳に念仏イエスにノー

救いであるはずの少年少女 鬼畜野郎に凌辱されまくり

救いのない大人に成長する それって成長か退潮なのか

救いがないのが救いなのだ 安吾安穏隠語隠者救いなし

人間に較べ虫はできがいい 蝉は泣き喚いて七日で死ぬ

蟷螂は生殖後雌が雄を喰う 蚊は針が折れるくらい刺す

灯蛾は飛んで自ら火に入る かの武士道も真っ青の潔さ

蚯蚓は泥を喰って泥を出す 蜥蜴は切れた尻尾が生える

蜘蛛はなによりも我慢強い 人間は待つのを愉しめるか 

虫は絶対戦争なんかしない 食扶持の取り合いはするが

虫には宗教も思想もないが ないことが宗教思想なので

あればいいってものでない 虫は環境に敏感であるから

自然環境を破壊しないから 人間より利口で優れている

蝗の大軍は破壊ではなくて 人間の食扶持を奪うだけだ

人間も虫の食扶持を奪って 糞でも喰らわねばならない

蜂や蟻ほどに働いたとして 原爆作ったり原発作ったり  

虫に比べて人間の愚かさよ 呆れる位情ないくらい位の

愚かさ愚かさ愚かさ愚かさ 愚愚愚愚グッドでない何か

人間はすこぶる愚かである 脳が二倍あっても足りない

否もしかすると半分でいい どっちだってできそこない

能なしに脳って必要なのか 一体どうなのか脳を使おう

かくいう吾輩も人間である おそらく吾輩は猫ではない

従って鼠を取ったりしない 鼠がきたら一目散に逃げる

吉良常飛車角を気取っても 飛んだ桂馬で任侠道どこへ

人間は猫よりも弱虫である 弱虫が万物の霊長の訳ない

強虫こそ万物の霊長である 人間は弱虫のみならず糞虫

つまりクソッタレの虫の息 人間はできそこないである

人間ができそこないの証拠 どこまで見せれば納得する

ちびた脳は他人を騙すため 弱気をくじき強きをたすく

ちびた脳は他人を威すため 小国から搾取し大国を潤す

ちびた脳は他人を殺すため 時として両親兄弟を幼児を

人間性なんて言葉があるが 攻撃性や残虐性と同義語だ 

人間はお粗末なものである 人間はお粗末なものである

犬猫は慎み深く喘いで死ぬ 屠殺場の牛は涙一粒こぼす

象は死ぬとき墓場まで行く それに比べて人間はお粗末

遺書を書いたり遺言を遺す 末期のときまで虚飾まみれ

犬は歩けば棒に当たるけど 人間歩けば車にはねられる

牛はモウモウ沢山となくが 人間はモットモットと喚く

象の象徴は長い鼻と巨大牙 人間の象徴は補聴器と入歯

詐欺をはたらく犬はいるか 金稼ぎに精出す牛はいるか

美容整形に嵌る象はいるか げに今こそ我身を思ふなれ

人間はよく馬鹿とほざくが 馬と鹿に失礼この上なしだ

月に吠え吠え吠え吠え吠え 水に歎き歎き歎き歎き歎き

咽喉が鳴りますゆやゆよん 中原に虹はいつかかるのか

仮に大空に虹はかかっても 決して人間にはかからない

人間にかかるのは火の粉か 人間がかかるのは病の気か

二次元三次元四次元五次元 一次元の道を踏みはずした

何と人間はお粗末なものか 何度大ミスしても懲りない

一番の大ミスは恋愛である 性愛を恋愛と思い込むアホ

恋愛病で七転八倒醜態晒し とことん狂ってストーカー

いっそう狂って自殺か他殺 金輪際狂うことをやめない

空海も親鸞も道元も日蓮も 色即是空空即是色巧言令色

だめでせうとまりませんな 雨ニモマケズ風ニモマケズ

二番の大ミスは結婚である ひたすら相手を独占したい 

そのためなら結婚が必要だ ライバルに諦めさせる作戦

そしてライバルは一生独身 結婚生活で地獄を味わうか

独身生活で天国を味わうか 答はあらかじめ約束される

三番の大ミスは離婚である 自己破産か不倫かどうあれ

離婚の理由は夫婦の不理解 人間のお粗末さを知らない

四番の大ミスは再婚である 女も男も誰だって大差ない

男女はみんなできそこない できそこない同志の再婚は

できそこないのくりかえし くりかえしの般若道をゆく

五番の大ミスは終活とやら 常に死ぬ準備と覚悟が必要

いまさら終活なぞ笑止千万 死ぬときは死ぬが良かろう

一貫一冠一環一巻の終わり 人間なぞに生まれてくるな

恋愛は病気と同意語である 誤って鳩を喰った手品師か

結婚は入院と同意語である 片手で拍手しておめでとう

離婚は手術と同意語である 手術台の上の雨傘とミシン

マルドロールバツドロール ロールスロイスの中で手術

再婚は点滴と同意語である 点滴は天敵であると知ろう

終活は退院と同意語である あらかじめ喪われた人魚か 

アホらしいにもほどがある アホらしいにもほどがある

人間はさもしいものである 人間はさもしいものである

奴が喰ってる肉は旨そうだ 奴が着ている服はキレイだ

奴が住んでる家はでっかい 奴の奥さんは絶世の美人だ

奴のメールには毎日お誘い 奴のカードには今日も入金

何より奴は生来の才能充満 その才能に老若男女大集合

僕と奴では生前から異なる よって生後も須らく異なる

人間万事塞翁が馬というが 人間万事不平等ともいえる

不平等を認識すると不謹慎 不謹慎を実行すると即監獄

不退転ならず一回転二回転 十三回転したって回転不足

そんな僕に輪廻転生無意味 永劫回帰は回避したいだけ 

不味い肉を喰わされるのみ 汚いシャツをかぶせられる

ウサギ小屋に住むしかない ブスッと暮らすのが精一杯

ヤク塗れ厄塗れ三文役者の 一役二役三役揃い踏みてか

不能無能で脳味噌スカスカ スカーレット役はアタシよ

僕のメールは借金催促のみ 僕のカードはすっからかん

そんならひとつ闇バイトを 逼迫軽薄脅迫箔すらつかん

だが人間はやるせないもの やるせないにもほどがある

金がないと生きていけない スラムの飢餓鬼金的ねらい

金科玉条一刻千金金襴緞子 金は天下の回りもの物狂い

キンカクシ隠し金庫金庫番 政治と金性事と金神事と金

烏賊の金玉狸の金玉金平糖 秘密蜂蜜カネ三つの甘い汁

糞喰らえ捕らぬ狸の皮算用 世間胸算用西鶴西行西新宿

糞喰らえ下痢喰らえゲゲゲ 鬼太郎桃太郎慎太郎金太郎

人間は些細な金で人を殺す 些細な金で魂を売り飛ばす

魂を売った輩は権力に縋る 魂を売った金を兆倍にする

且つ歴史を変え制度を変え 独裁者動物農場のブタ野郎

ひいては人間の魂を変える 総動員令国民人民奴隷根性

そうじゃないうそじゃない そうじゃないうそじゃない 

全く人間はやるせないもの やるせないにもほどがある

夢がないと生きていけない 巷に夢遊病群れ溢れかえり

無我夢中夢幻抱擁夢か現か 人生夢芝居みんな夢のなか

国家の恥大逆事件に幸なし 国民の恥奴隷根性に栄なし

明治は遠くなりにけりだと 明治は令和に続くなりだよ

実に人間はやるせないもの やるせないにもほどがある

家がないと生きていけない ホームレスさえも家はある

いえいえ家とはいえません だから結句未だに半死半生

金と夢と家こそ三種の神器 仁義通さにゃ人間じゃない

大地震大津波何度来たって 保険があるよ保険があるさ

虫にも植物にも不要なもの 不要の是非か必要の是非か

現代人はさらにややこしい 車や電気や衣服やあれこれ

断捨離やっても必要なもの 犬猫にも牛にも象にも不要

なぜに人間だけ必要なのか 人間は退化しつつあるのか

人間は生き辛くなっている 正に客観的にはそう見える

少なくとも断固主観的には それほどにやるせないもの

車や電気や衣服ではなくて 人間に大切なのは芸術のみ

できそこないが芸術だって できそこないが芸術だって

できそこないだから芸術さ できそこないだから芸術さ

だがだれもそれを知らない 美しい花々を発見できない 

しかるに芸術は衰退一途だ ベートーベンは生まれるか

ゲーテやダビンチやロダン 果たして過去の遺物なのか

芸術はエンタメに変貌遂げ 芸術はゲームに席巻されて 

芸術はみるかげもなくなり 芸術は近い未来に絶滅する

むかしは電車では文庫読み いまは電車でもスマホ弄り

違いがないどころか大違い 違いの解る者はもういない

AIだCIだと威張っても ええじゃないか踊りと同じ

こうこはどうこの細道じゃ 道なき道をばとおりゃんせ

君は巨石を砕き天空を殺し 芸術を取り戻せるだろうか

それでも君は一縷の望みを 一縷どころか十縷ほどにも

そうでなければ生きてない そうでなければ死んでいる

しかしどこからか声がする おまえはもう死んでいると

北斗星が輝くのはあと数年 おまえが蠢くのはあと数年

惨酷なのは四月だけでない 年がら年じゅう惨酷なのだ

惨酷でなければ悲惨である 悲惨でなければ荒野である

さても未来社会こんにちは さようならさようなら芸術

そしてそのとき人間も絶滅 さようならさようなら人間

あれは水音であったろうか あれは月光であったろうか

ひそやかな黄昏に聴こえる しずかな夜ふけにながめる

あれは水音であったろうか あれは月光であったろうか

それともあれは想い出の中 それともあれは幻の夢の中

聴こえる聴こえる聴こえる ながめるながめるながめる

わたしは巨石の上に眠ろう わたしは天空の中を泳ごう

わたしは水音の上に眠ろう わたしは月光の中を泳ごう

音はわたしを鞣すであろう 光はわたしを曝すであろう