労働者のいる風景(1) (2) 三上広昭 |
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(2) 「でも死ぬことあねえだろう」 ① 資料 「ワイルドサイドをほっつき歩けーハマータウンのおっさんたち」 ブレディみかこ 2020年6月 筑摩書房 *職業・職種 英国(イギリス南部・ブライント)の労働者 ブレディみかこは1965年福岡市生まれ、1996年から英国に住んでいる。「労働者のいる風景53」でとりあげた『ハマータウンの野郎ども』の「反抗的で反権威」だったガキどもが現在どのようなおっさんになり「人生の黄昏期を歩いている」姿を描いた本だ。 「反抗的で反権威」だったガキどもは立派な労働者階級のおっさんになり、「時代遅れで、排外的で、いまではPC(ポリティカル・コレクトネス)にひっかかりまくりの問題発言を平気でし、EUが大嫌いな右翼っぽい愛国者たちということになっている。」つまりおっさんたちの多くがEU離脱に投票したということだ。 〈野郎ども〉はなんだかんだ言っても「ゆりかごから墓場まで」の福祉社会に育った。 「失業すればつるっと簡単に失業保険が出たし、怪我や病気をしてもNHS(国民保健サービス)で無料で治療してもらえるし(当時はいまと違って処方箋まで無料だった)、学費も無料だったので行こうと思えば大学だって行けた。労働組合の力が強かった頃だから、現在と比べると労働者の態度もずっとデカかったのである。」 「彼らにとっては、労働とは生活資金を手に入れることで、9時から5時まで真面目に働けば(モリッシーはそれさえ拒否したが)、後はパブに行ったり、休日は家族で出かけたりしてプライベートを楽しんでも、生活に不安を感じることはなかった。」 それを〝ひょい“と現われた〝よそ者〟に横取りされると思い怒りと恐れがでてくる。 「数年働いてお金を貯めて帰るつもりでやってくるEU圏内からの移民は『英国内の労働者の待遇や賃金について考えていない』点でムカつく」。 と言う反面、おっさんのひとりは「組合に入って闘ったむかしの移民は好き」とも言う。 移民の側の言い分も作者は拾い上げる。移民たちには〝俺(私)たちは労働者階級の仲間にさえ入れてもらえない〟〝自分たちは労働者階級の悪癖(怠け者、犯罪者、暴力的)とは無関係〟と彼らの意識が根深いとも指摘する。 この原因をサッチャーに代表される新自由主義と緊縮財政(福祉国家の縮小)を上げる。 「福祉国家の縮小、をまさに体現しているのがNHSである。ブレグジット投票で離脱に票を投じた人びとの多くが、『離脱すれば、週3億5千万ポンド(約五百億円)のEUへの拠出金を国内でNHSに投入することができる』という離脱派キャンペーンのデマを信じて離脱を選んだ」。 緊縮財政(福祉国家の縮小)におっさんは妙な意地で対抗する。作者の連合いが具合が悪くなったとき緊縮財政のために診察の順番がなかなか回ってこなくなり息子は民間の病院の診療を勧める。 「自分の健康とお金と、どっちが大事なの?」「だから、これは健康と金だけの問題じゃない。もっと大きなものだ。俺はサッチァーにもグローバル資本主義にもまけたくねえし、加担したくもねえ」 この手のおっさんたちの抵抗が所々に出てくる。 緊縮財政で図書館が閉鎖され、名目だけの図書館=子ども遊戯室に替えられたとき、そこで子供をあやしながら本を読むおっさん。 「中国人たちの家に向かって、石や煉瓦を投げ始めたガキがいる。この辺に住んでいる人間として、黙っているわけにはいかん」と言ってごっついおっさんたちがパトロールを始める。 さらにおっさんたちは開き直る。「『絶望、なんてロマンチックなことは、上の階級のやつらがすることよ』……そんな抽象的なことでは腹はふくれない。労働者はまず下部構造。食っていかねばならんのだ。」 「まあなー、でも死ぬことあねえだろう。俺ら、サッチャーの時代も生きてたし」。 哀愁漂うおっさんに幸あれ。 |
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