土田宏樹 つちだ ひろき |
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【HPコラム 2025・4】 蕎麦掻き |
東京でも桜が満開となった4月初めの某夜、郵便局で働いていた頃の仲間たちと神田の蕎麦屋で飲んだ。菊正宗の熱燗。5人連れだったので肴はあれこれ少しずつ注文して分け合う。鰊の棒煮、卵焼き、焼き鳥・・・。蕎麦がきもたのむと、塗り物の湯桶が運ばれてきた。熱い湯が満たされ、蕎麦粉を掻いたのが浮かんでいる。 大江健三郎を誘って神田の蕎麦屋に入り、蕎麦がきを食べた話をむかし安岡章太郎が書いている(雑誌『文藝』1974年2月号)。 「そばがきといふのは、私は子どもの頃から何となく貧乏臭い気がして好きではなかったが、大江氏が食ひたいといふので、付き合って食ってみると、これがじつにウマかった。」 安岡は店名を明記していないが、われわれが行ったのは、おそらく同じ蕎麦屋である。そして蕎麦がきというのはじっさい貧乏くさいようで実にうまい。そば切りにする前の、鉢で捏ねられた蕎麦のかたまりだ。 安岡のその文章はもう半世紀前で、安岡章太郎も大江健三郎も今やこの世の人ではない。私が最近読んだ中で蕎麦屋が登場するのは津村記久子の小説『水車小屋のネネ』(2023年)だ。題名にある水車小屋は山あいの、近くを川が流れる蕎麦屋に併設されていて、水車の動力によって回る臼で蕎麦の実から蕎麦粉が挽かれる。小説の中に蕎麦についての蘊蓄などいっさい出てこないが、きっと美味いに決まっている。蕎麦がきが出される場面もあった。 ネネというのは、水車小屋に棲むヨウムという鳥の名。オウムの一種で賢い。18歳と8歳の姉妹が事情があって家を出、姉は蕎麦屋で働く。彼女たちをめぐって1981年から2021年まで40年間のクロニクル(年代記)のような作品だ。 読後感が爽やかなのは私が蕎麦好きだからだけではないと思う。 |
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酔流亭日乗 ブログ更新中 |
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「郵政労使に問うー職場復帰への戦いの軌跡』 池田実 著 2022年8月2 web労動者文学会作品集 |
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「座り込めここへ〜名護市長選直前の辺野古を訪ねて〜」」 2018年 web労動者文学会作品集 |
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第26回 労働者文学賞2014 評論・ルポ 入選「深夜労働」 |
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【HPコラム 2024・2】 沖縄戦を忘れるな |
沖縄在住の芥川賞作家、目取真俊氏の短編小説『闘魚』(とーいゆー)に登場する老女カヨは、沖縄戦が終わったとき11歳だった。7歳の弟がいた。勘吉といった。父は病没、母ウシと幼い妹ミヨとの4人家族は、辺野古の大浦湾に面して米軍が作った収容所に入れられた。母と妹がマラリアに罹って高熱を発し寝込む。 |
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【HPコラム 2021・4】 働く仲間を鼓舞する言葉 土田宏樹 |
前年度最後の土曜日であった3月27日は成田空港へ行った。ユナイテッド航空による不当解雇と闘う情宣活動に参加するためだ。国際線4階ロビーで、解雇された当該の2人を中心に50人ほどが「職場へ戻せ!」と声を上げた。解雇は2016年。以来ほぼ毎月最終土曜日の午後に取り組まれ、これが49回目である。1月と2月はコロナ禍で中止されたから、今年に入ってからは初めてだった。 |
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