「皆ももう知ってると思うけど、今日からこのクラスで一緒に勉強する事になった転校生を紹介します」

教室に入ってきた担任―マリア・アルカードに伴われて、一人の男子生徒が入ってくる。

小柄で華奢なその学生は、クラス全員の好奇の視線に少し戸惑っている様だった

「それじゃ、自分の名前を黒板に書いて」

促されて、彼は黒板に名前を書いた。

『桜咲 風月(おうさき しづき)』

「桜咲くんは、御家庭の事情で、こちらに引っ越してきました。まだこちらには馴れてないから

色々と教えてあげてくださいネ。…何か聞きたい事がある人は?」

「はーい!どこから引っ越して来たんですか?」

「島根です」

「生年月日はいつですか?」

77日です」

「きゃあ、あたしと相性ピッタシ!」

「お姉さんか妹いますか?」

今度は、男子から質問の声が上がる。

「姉と妹が、一人ずついます」

矢継ぎ早の質問に、風月は驚いたようだった。

「ちょ…ちょっと…。みんな、桜咲くんが困ってるでしょう。質問はこれで終わりにします」

ブーイングの声が上がるが、彼女は教室内の空席を探す。

「席は…美里さんの隣が空いてるわね。彼女は、生徒会長で、クラス委員長だから、判らない事

があったら、聞いてみてね」

「はい」

風月は指示された席に座った。

そんな『彼』を不思議そうに見ている少年がいた。

(桜咲 風月だぁ?なんで、あいつ、あんな格好してんだ?)

赤毛の髪の少年は、隣の席の美少女と挨拶を交わしている風月を見つめた。

(風月だよなぁ…ん?)

後ろの方に固まっているクラスの不良が面白くなさそうな目で『彼』を見ているのに、気づいた。

(あんな格好で来るから、誤解されてるぜ。どうすんだよ)

「仕方ねぇな」

出来る限りのフォローをしようと心に決める。

(いくらあいつでも、転校早々、人殺しにはなりたくないだろうしな)

HRが終って、葵が顔を紅くしながら、風月から離れるのを見て、そちらに近づいていった。

「よぉ、転校生」

その声に顔を向けた風月の表情が一瞬にして驚きに変わる。

「き…!」

「よろしくな、俺は蓬莱寺 京一って言うんだ。縁あって、同じクラスになったんだからな」

その言葉に立ちあがりかけた風月は、再び腰をおろす。

「こちらこそ、よろしく」

「それよりあまり目立つなよ。ここには自分が一番だって思いこんでるお山の大将がいるからな」

自分の事をしっかり棚上げして、耳元で囁く。

「まぁ、余計な事に首を突っ込まなければ、大丈夫だから。注意するんだな」

「忠告、ありがとう。気をつけるよ」

授業開始のチャイムが鳴り響いて、京一が自分から離れた後、さっき、彼が見ていた方を

こっそり盗み見る。

そこにはいかにも不良という事を自己主張している一群がいた。

(やだなぁ、何も悪い事してないのに…)

午前中の授業が終って、風月が立ちあがりかけた時、先程の不良がやってきた。

「おい」

「桜咲」

何かを言おうとした不良は、やってきた京一の姿を見て去っていった。

「昼飯、持ってきてるのか?」

「購買部に行くつもりだけど」

「だったら、連れてってやるよ。ついでに校内を案内してやる」

「頼むよ」

2人は教室を出て行った。

校舎内の説明を終えた後、彼らは屋上にやってきた。

「で…どうして、学ランなんか着てるんだ?風月」

「え?何の事?」

「誤魔化すな。お前の性別は女だろうが!」

「あ、やっぱり覚えてた?」

「当り前だ。最後に会ったのは、5年前だぞ。いくらなんでも、忘れるわけないだろうが」

「京一の事だから、忘れてると思ってた」

「あのな、お前、俺の事を何だと…」

「剣術馬鹿」

その容赦ない言葉に、京一は頭を抱えた。

「その言い方は、あんまりだろうが」

「だって、それ以外の言葉知らないもの」

そう言って、風月は買ってきていたパンを一口かじった。

「それとも、他に当てはまる言葉知ってる?」

「もういい…」

京一はがっくりと肩を落とした。

「本当に、変わってねえよな。お前は」

「それは京一もだろう」

「俺は成長してるぞ。お前と一緒にするな」

「どうだか…あんた、神威師匠と大喧嘩してから、一度もうちに来なかったじゃない」

「お前こそ、まさか家族全員でこっちに来たのかよ」

「んな訳ないだろう。俺は一人で来た」

「一体なんで。やっぱり《力》絡みか?」

「知らない。無理やり転校させられたから」

「なんだよ、それは」

要領を得ないその答えに、京一は風月を見た。

「訳判らないよ。新宿(こ こ)に行けって言われたのは半年前だもの。詳しい説明なんて受けてないよ。」

「よく、親父さんやお袋さんが許したな」

「あんたに言われたくない。あんたの所の親だって、随分変わってるじゃない」

「放っとけ…」

触れられたくない両親の話題に、京一は顔をしかめた。

「それにしても京一が、ここにいるとはね。てっきり、拳武館に入ったかと思ってた」

「鳴滝のおっさんがスカウトには来たけどな。断った。武道にどっぷり浸かって、

貴重な高校生活送るなんてごめんだね。それにあそこに入ったら、こき使われるのも判ってるし」

「本当は、向こうに転入するはずだったんだけどね。親が反対して…」

「当然だろう。親が、危険な場所に娘行かせたがるかよ。ここに来れただけでも御の字だろう。

お前の場合は…」

「まぁね。どこでも構わなかったんだけどね。せめて、ここにしてくれって、鳴滝さんに

泣かれた」

「あのおっさんが泣いたのかよ。信じられねぇな」

「結構、可愛い所あるよ。あの人」

「そんな事言うの、お前くらいだぜ。壬生だってそんな事言いやしないぜ」

「紅葉?そう言えば、会ってるのか?」

「まさか。たまに、新宿で見かけるけどよ。声かけるのもまずいだろう」

「まあね。新宿にいる理由なんて一つだろうし…」

「それにしても、この髪は目立ち過ぎだぜ。せめて染めるとかしてこいよ」

風月の髪の毛を引っ張りながら京一が言った。

「やあだ、そんな面倒くさい事。この色、気に入ってるんだし。第一髪の毛が痛む」

背中で一つに結ばれた銀色の髪を揺らして、風月が答える。

「それに新宿じゃこんな髪の毛の人なんて山ほどいるだろうが」

「いるわけ無いだろうが、ここまで見事な銀髪の奴なんて」

「そう?TVで結構見かけるけど…」

「そんなの一握りに決まってるだろうが…」

京一は少し脱力しかけて、話題を変えようとした。

「で、お前がここに来たって事は始まるって事かよ?《力》を巡る闘いが」

「だろうね。きっと…」

手摺に凭れかかりながら、風月は答えた。

「ねぇ、あの建物は何?」

「あ?」

風月の指の先にある建物を見て、京一は納得したように頷いた。

「旧校舎だぜ。何かいわくがあるらしいな」

「入ってみた事ある?」

「ねぇよ。あんな異様な気を発してる所になんで好き好んで入らなきゃいけねぇんだ」

「度胸ないなぁ。ねぇ、今度入ってみない?」

「マジ?」

信じられない言葉を聞いたように、京一は眼を剥いた。

「面白そうじゃない。機会があったらでいいからさ」

「あそこを面白いなんて言うのは、お前と、裏蜜くらいだぜ」

「裏蜜?ああ、さっき会ったあの娘?」

風月は、ここに来る途中で出会ったビン底眼鏡の少女を思い浮かべた。

「何かって言うと、俺達につきまといやがって…」

「あの娘も、『仲間』かも知れないね」

「あいつが『仲間』〜?」

京一は嫌そうな表情を浮かべた時、予鈴が鳴り響いた。

「さあてと、そろそろ戻らないと。京一、案内してくれてありがとう」

食べ終わったパンの袋を丸めると、風月は立ち上がった。

「なにかあったら手伝ってもらうから。その時はよろしく」

「ちょっと、待て。何だ、それは」

「まさか、自分だけ高みの見物するつもりじゃないよね?」

慌てる京一にそう言うと、風月は屋上から降りていった。

「まぁ、仕方ねぇか…」

その後姿を見ながら、彼は困ったような表情を浮かべながら苦笑していた。

 

放課後になって、帰り支度をしていた風月のところに隣のクラスの遠野杏子がやってきた。

「桜咲くん、一緒に帰らない?ゆっくりとお話でもしながら」

「え?」

「せっかくだから、どこかでお茶でも飲みながら」

ニコニコ笑いながらそう言う杏子を見ながら、風月は京一の言葉を思い出していた。

(え〜と、確かこの子は新聞部の部長で、何にでも首を突っ込みたがるトラブルメーカーだから、

注意しろって…)

「悪いけど、まだ引越しの片づけが残ってるし、近くの店とかも見てみたいから」

「え〜そんなの後でもいいじゃない。私、桜咲君の事…きゃ!」

突然、やってきた男子生徒に杏子は突き飛ばされかけた。

「!」

風月が慌てて、彼女を支える。

「何するんだ、いきなり!」

「おい、桜咲。佐久間さんがお呼びだ。一緒に来な」

風月の抗議を聴きもせず、その男子生徒はそう言った。

「佐久間?」

「ちょっと!佐久間が、桜咲君に何の用事があるって言うのよ」

「うるせぇよ、ブンヤは引っ込んでな」

「何よ!」

杏子と男子生徒が言い争ってる間、風月はぼんやりと考えていた。

(佐久間って誰だろう?)

少なくともこの学校の中で名乗ってきた人物の中にはそんな名前の人間はいなかった。

「あの…遠野さん」

目の前で、まだ言い争っている杏子の肩を叩くと、一時争いを中断させる。

「何?桜咲君」

「あのさ、佐久間って…、誰?」

その問いに目の前の人間達がこけかける。

「誰って…」

「聞いたことない名前なんだけど…このクラスの生徒なのかな?」

「お前、佐久間さんを知らないのか!?」

「知らない、全員に自己紹介してもらったわけじゃないし。このクラスで名前知ってるのは3人

だけなんだけど」

「なんで、有名な人なのに知らないんだ!?」

「佐久間じゃ当然でしょう。所詮は井の中の蛙よ」

男子生徒の言葉に、杏子が鋭い突っ込みをいれる。

「あのさ、いくら有名でも俺のいた所を考えてくれないかな。島根だよ?東京で有名でも

知らなくて当然だよ」

「ごたごた言ってねぇでとっとと来い!」

業を煮やしたらしい彼は、風月の腕を掴もうとした。

「ちょっと、やめなさいって!」

「おい!」

その時、扉が開いて別の男子生徒が入ってきた。

「あ、佐久間さん」

「まったく、お前らは使いの一つもできないのか」

「すいません」

「まぁ、いい。桜咲、一緒に来い」

(こいつが佐久間なのか?それにしても、そんなに有名になれる感じじゃないけど)

佐久間の風貌を見た風月は、一瞬そう思った。

「早く連れて来い。いいか。逃がすんじゃねぇぞ」

「はい」

「いいか。先公にチクったりするんじゃねぇぞ」

杏子に対して、そう言い捨てると、佐久間と言うその男子生徒は教室を出ていった。

(しょうがないな。夕食前の軽い運動してくるか。遠野さんの追及も逃れられそうだし)

「さっさと来い!」

「行く事ないわよ、桜咲君」

「大丈夫だから、心配しないで。先に帰っていてくれていいから」

それだけ言い残して、風月は男子生徒たちと教室を出ていった。

「た…大変だわ!」

残された杏子は慌てて教室を飛び出していった。

 

体育館裏に来た風月は、もう一人の気配を感じて頭上を見上げた。

葉の生い茂った枝に隠されて姿は見えなかったが、良く知った気に溜息をつく。

(午後の授業で姿が見えないと思ったら、こんなところでさぼってるし…あの馬鹿)

その溜息の意味を勘違いしたのか、周りを取り囲んでいた不良達は嘲笑する。

「転校早々、佐久間さんに眼をつけられちまうなんて、ついてねぇよな。まぁ、運が悪かった

ってあきらめな」

「せいぜい、病院のベッドの上で看護婦のネェチャンに甘えてな!」

「願い下げだね。そんな事は」

飛び掛ってきた一人を軽くかわすと、風月は頭上に向かって呼びかけた。

「京一!死人を出したくなかったら、手伝え!高みの見物決め込んでんじゃない!」

「馬鹿野郎!くだらない事に俺を巻き込むな!」

突然名前を呼ばれた京一が、樹の上から飛び降りてきた。

「あ…そ、じゃ、こいつらが葬儀場送りになるの見てれば」

風月の気が戦闘モードになりつつあるのを見て、京一は髪の毛をかきむしった。

「しょうがねぇな。普通の人間を死なせるのも目覚めが悪いし、手伝ってやるよ」

「何を訳のわからねぇ事を言ってやがる。すぐに、ぶっ殺してやるぜ」

佐久間が風月に飛び掛ってくる。

「馬鹿が…」

風月の瞳に冷たい光が宿った途端、彼の身体が吹き飛ばされる。

「!」

佐久間を助けようとした残りの人間は、京一の木刀によって動きを封じられる。

「喧嘩売った相手が悪かったと思って、あきらめな。命があるだけもうけもんだと思うんだな」

京一はそう言って、目の前の人間を叩きのめしていった。

「終わった?」

「ああ。そっちは殺してないだろうな」

「手加減はした」

風月はつまらなそうに言った。

「こんな風に誰かれかまわず喧嘩を吹っかけるような奴に手加減が必要だとも思えないけど」

「まぁ、そう言うなって。こんな奴に振るうために、お前の《力》はあるわけじゃないだろう?」

木刀を袋にしまいながら、京一はそう言った。

「て…てめぇら…ぶっ殺して…」

「やめとけって。これ以上、こいつを怒らせたら、マジで今日がてめぇの命日になるぜ」

立ちあがりかけた佐久間が、闘気を高めかけてるのを見て、京一が止めに入る。

「ふざけるな…」

「そこまでだ!佐久間!」

突然響いた声に、全員の視線がその方角を見た。

体育館の壁の方から、大柄な男子生徒と葵が姿を現す。

「美里…」

「よぉ、タイショー。随分、ゆっくりしたご登場だな」

「佐久間、今止めれば私刑の事には眼をつぶってやる」

「…わ…判った」

「済まなかったな、桜咲と言ったか。うちの部員が迷惑をかけたようだな」

「別に…夕食前の軽い運動だと思ったから。それにこっちに怪我はないし」

「中々度胸が据わってるようだな。俺はレスリング部部長の醍醐雄矢だ。部員の非礼は詫びる」

「よろしく、桜咲風月だよ」

「それにしてもなんでここが判ったんだよ」

「ああ、美里が知らせてくれたんだ。佐久間が転校生を連れて言ってしまったとな」

「そうなんだ。助かったよ。ありがとう」

風月は葵に向かって礼を述べる。

「私、とっても驚いて…でもたいした事にならなくて良かったわ」

「それにしても、こいつらをここまで見事に倒すとはな。人は見かけによらないな」

「まさか、タイショー。こいつとやりたいってんじゃないだろうな」

「ハハハ。考えておくとしよう」

(やめとけって…。どうしてこう命知らずばかりなんだ)

京一の心の中の声も聞こえないのか、醍醐は笑って見せた。

「とりあえず、歓迎する。ようこそ真神学園…いや、別名を教えておいた方がいいか」

「別名…」

「ああ、いつの頃からか判らないがこの学園はこう呼ばれてる。魔人学園とな…」

「魔人学園…」

その言葉を聞いた風月はちらりと京一の方を見たが、彼は『我関せず』という顔をしていた。

 

「ああ、終わった終わった。やっぱり男手があると違うな、助かったよ。京一」

「まったく…引越しの後片付けまで、手伝わせやがって…」

「何言ってんだ。夕食につられて、ここに来たのは京一だろう。何もしない奴に、食事を

食べさせるつもりはないぞ」

「鬼か、お前は」

「何を言ってるのかな?京一君は?」

にっこりと笑って風月は京一を覗きこんだ。

「一番、大切な事わざと言わなかったね?君は」

「な…何の事だよ」

彼は思わずあとずさる。

「なんで、別名をすぐに言わなかった?忘れてたわけじゃないよね?」

「いちいち、俺が教えるような事かよ!?第一鳴滝のおっさんにでも聞いたと思ってたんだよ!」

「そんな言い訳を言うのは、この口か〜!」

風月は、京一の口の両端を思いきり引っ張った。

「い…いてて…」

「自分の学校の情報くらい、自分で教えんかい!」

風月は、そう言って京一の事を床に放り投げた。

「知ってる情報を教えないなんて、覚悟がたりないよ?京一」

「んな…学校の別名くらいでどうにかなるわけじゃネェだろうが」

「まだ、言うか〜!」

体を起こした京一の頭を思いきり叩くと、彼女は台所に歩いていった。

「まったく…、こっちの情報は少ないんだからね。知ってることを全部教えるのは

当たり前だろうが」

「壬生とかから、情報が回ってると思ったんだよ」

「紅葉に頼るわけに行かないだろうが。向こうは向こうで忙しいんだから」

「何の為に、情報網握ってるんだよ…」

「…京一、それ以上言うと食事抜きだよ」

冷たい言葉を京一に投げかけると、冷蔵庫の扉に手をかける。

「判ったよ。まったく、壬生の事になるといつもそうだな」

「当たり前だろう。京一と紅葉じゃ役割が違うんだから」

「俺の役割ってなんだよ」

「自分で考えろ。馬鹿」

言いながら、風月は食料を取り出していく。

「なぁ、風月。酒あるか?」

「未成年が何を言ってる」

京一の問いに冷たい一瞥を向ける。

「良く言うぜ。うわばみが。どうせ用意してあるんだろうが」

彼はそう言うと冷蔵庫の方に歩いてきた。

「あ、やっぱり用意してやがる。しかもこんないい酒ばかり!」

「勝手に飲むなと…!」

風月の制止を聞かずに、京一は中の一本の缶ビールに手を伸ばした。

「……一本だけだぞ…」

諦めたように、風月は呟いた。

「お前は飲まないのかよ?」

「俺が飲んだ後、誰が、お前の暴走を止めるんだ?」

「一本でどうにかなるわけないだろうが」

京一は、プルタブを開けながら笑ってそう言った。

 

「結局、こうなるんだな…」

夕食が終わり、風月が風呂から上がってくると、京一がリビングで寝ていた。

「起きろ!風邪を引いても看病などしてやらないぞ」

寝こけている京一の身体を軽く蹴り飛ばすと、新しいビールの缶を開けて飲み始める。

「う〜ん」

「寝たいなら、客室に行って、自分で布団を準備しろ」

「風月ぃ!」

「うわッ!?」

いきなり自分に抱き着いてきた京一に、驚いた風月は缶を落としかけて、寸での所で

事無きを得る。

「いきなり何をする!危ないじゃないか!」

「風月、4年ぶりなんだしさ、やろうぜ」

「酔っ払いがほざいてんじゃない!」

京一の突然の言葉に、動じもせずに、彼を殴りつける。

「いいじゃねぇか」

「馬鹿やろう!寝たければ、一人で寝ろ!!こっちは転校初日でくたくたなんだ!

余計な体力使わせるんじゃない!!」

自分に絡み付いている京一の腕を簡単にねじり上げると、その身体を床に弾き飛ばした。

「無茶を言うなら、お前の家に逃げ込むからな。そうなった時の覚悟くらいできてるんだろうな?」

自分の苦手な場所を引き合いに出されて、京一は渋々白旗をあげた。

「判ったよ、無理強いはしねぇ。それでいいな?」

両手を挙げて、降参の意を示す京一に押入れから取り出してきた枕を投げつけながら、

風月はさらに爆弾を投下する。

「あ、そうだ。日曜日、等々力渓谷行くけど、付き合うか?」

「と…等々力ってまさか、あいつのとこか?」

京一の顔から一瞬のうちに血の気が引く。

「ああ。翡翠も祇孔も晴明も雷人も連絡したから、そのうち来るだろうが、

あいつだけは絶対にこっちから行かないと動こうとはしないだろうからな」

「あいつの事なんてほうっておけばいいじゃないか」

「京一、ご先祖が泣くぞ。どうしてそんなに毛嫌いするんだ」

「わーるかったな。最初から性が合わないんだよ」

がりがりと髪の毛をかきむしりながら、京一はそっぽを向いた。

「いい加減、慣れとけよ。いずれ一緒に戦うかもしれない奴なんだからな」

風月は、そうピシっと言い放つと、自分の寝室へと入っていった。

 

 

その1、おまけへ